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side.Akihito
「喧嘩目的ならな…。けどアイツは────」
お前が好きだって言ってんだぞ?
…そう何度忠告しても、保がすんなり納得する事はなく。あり得ないといった様子で眉を下げちまう。
「う~ん…そもそもソレが、一番よく解んないんだよねぇ。」
あくまで無自覚を貫く保は宙を仰ぎ、口元に指を当て首を傾げる。
文化祭前までなら、俺もここまで神経質にはならなかったんだが…
「ホント、お前鈍いよな…」
こうして普通に廊下を歩いてる間にも。
生徒…だけでなく男の教師までもが、必ずこっちを振り返ってくる。
その大半が保に向けてくる、好奇心や下心丸出しな視線であり。
保は全く気付いちゃいねぇけど。
あからさまに見てくっから、俺の不満はどんどん蓄積されていくわけで。
昔の俺なら、この時点で全員血祭りに上げてただろうけど。
一歩手前で我慢する事を学んだのは。
やっぱり保っていう、大事な存在をみつけたから…なんだろうな。
「お前がいなかったら、俺は…」
「え?」
なんでもねーよと誤魔化して、保の頭を掻き回す。
普段はこんなニブチンなクセに、妙なとこで急に鋭くなっから。どうもカッコがつかねぇんだよなぁ、たく…。
そんな俺の様子にきょとんとする保だったが。
気付けばとっくに、目的地の移動教室前まで到着してしまい。申し訳無さそうに口を開く。
「ごめんね、わざわざ付き合わせちゃって…」
「あ?なんで謝んだよ。俺が勝手に付いて来てるだけだろ?」
今更そんな遠慮する仲でもねぇんだし。
そう返しても保は。でも…だのと口ごもり、俯いてしまう。
「最近、僕の所為で授業遅れがちなんでしょ?綾ちゃんが心配してたから、さ…」
そう言えば、水島に色々注意されてたっけな。
理由はどうあれ、俺らは卒業間近なんだからとか…。
「僕なら、平気だよ?そのっ…高月君の事なら、ホント気にしてないし…」
それに…と保は戸惑いながらも、背伸びしながら赤く染めた顔を俺に近付けてきて。
「ぼ、僕には…うっ…ぁ…昭仁君だけ、なんだから…」
「ッ……!!」
あ───ヤベーだろ、コレ…。
他の生徒だって周りに沢山いんのに。
熱くなる顔もニヤけるそれも、どうにもなりゃしねぇ。
「あ、ごめんねっ…。予鈴鳴っちゃうから、上原君も教室戻って?」
俺を気遣う保。
あんな台詞を聞かされちまったら…このままどっか連れ込んで、今すぐにでも押し倒してやりたい、とか。
そんな邪な考えと、密かに脳内で押し問答を繰り広げていたら────…
(アレは…)
視界の末端、目敏くも捕らえたのは…憎たらしくも件 の高月の姿。
しかもこの距離でバッチリ目が合い。
途端にあの野郎が、挑発的な目で俺を睨み返してきやがったから。
(チッ…良いところで、いちいち邪魔しやがって…)
「どうしたの?」
まだ何も気付いちゃいない保は、いつまでも動こうとしない俺に声を掛けてくる。
ふとそこで…俺は閃いた。
「上原君?」
高月が遠くからこっちを見ている。
保はまだ解っていない。
俺は牽制ひとつ、ヤツをひと睨みし────…
「上原く─────」
再度、俺の名を呼ぶために開かれた唇を──…塞いだ。
触れるだけの、甘ったるいモノとは違い。
少しだがぬるりと舌を這わせ、保のソレを絡め取ってやる。
目を細く開けたまま、保を見やれば。
丸く見開かれた瞳とぶつかり…すぐさまそれは、ぴしりと固まってしまった。
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