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side.Akihito 「な、なっ…」 保だけじゃなく…その場に居合わせた6組の生徒ら全員が言葉を失い、茫然とする。 向こうにいる高月も足を止め、じっと俺らを見据えていた。 「うっ、上原君…!!」 顔を真っ赤に沸騰させ、怒ったように叫ぶ保。 そう言えば、こないだ約束したような気もしたが… コレは不可抗力、俺はあくまでシラを切り通した。 んでもってもう一度、保を引き寄せ顔を近付ける。 「保。」 「な、なに…?」 声を潜め名を呼ぶと、びくりと肩を揺らし反応する保。その目をきっちり捕らえてから、 「…俺だけを見てろよ。」 浮気したら許さねぇからな?…と意地悪く念押しして。 俺は再び、保の唇にチュッと口付けた。 「ッ─────…!!」 半泣きで沸騰する保に、じゃあなと手を振りその場を後にする。 それから高月のいる方へスタスタと歩き出す俺は、 「…………」 「…………」 お互い一度だけ視線を交わすと、そのまま無言で擦れ違った。 背中に刺さる剥き出しの敵意を鼻であしらい、 何事もなく階段を下りていく。 (テメェになんざ、渡さねぇよ。) この先何があっても、手放すつもりなんか無い。 保が俺に惚れてるかどうかは、この際関係ねぇんだ。 (アイツは俺の、なんだよ…) 強気な台詞は決して自惚れなんかじゃない。 それが出来るのなら、こんな燻った感情なんざ端から生まれやしねぇんだ。 ここまで誰かを求めた事なんて無かった。 水島にさえも、だ。 スゲェ貪欲な気もすっけど。 同時に満たされてく自分がいるのも、確かで。 情けねぇ話だが…俺はもう、すっかり保に絆されちまったみてえだ。 保の唐突な告白から始まった関係も。 いつの間にか俺の気持ちの方が追いつき追い越して。 とんでもないデカさになったもんだと… 自分の弱さに呆れ、自嘲する。 (保…) つい今し方、保の口から紡がれた言葉を。 頭ん中で反芻する。 呪文みたく何度も何度も。 まるで自分に言い聞かせるみてぇに、強く。 『僕には昭仁君だけなんだから…』 自分の教室に向かおうとした足を、 迷いながらも上に登る階段へと移動させる。 なんだからしくない、そんな気分に浸ってしまった俺は… 保の真っ赤な顔を思い出しながら、屋上を目指した。

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