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side.Tamotsu
「こ、こうづき、く…」
「ひッ…1年の、高月 陸人…」
いつもの無表情を携え、
すぐ傍に佇んでいたのは…あの高月君で。
目が合えば、ゆっくりとこっちへ近付いて来る。
「えっ…と、あの─────」
うちの学校で、上原君の次ぐらいに不良として有名人らしい高月君の登場に。今度は原君達が、動揺し始めたけれど…。
当の本人は然して気にも留めず、淡々と続けた。
「佐藤サン、困ってるだろ?」
多分威嚇してるワケ…じゃないんだろうけれど。
免疫の無い人にとって彼の鉄仮面は、逆に恐怖心を掻き立ててしまうみたいで。
写真部のふたりはビクビクと、見て判るほど怯えている。
それでも余程モデルの件を、僕にやらせたかったんだろうか…暫く、高月君の無言の重圧に耐えながらも。
原君は意を決したよう、高月君を見据えると。震える声で強気に反論し始めた。
しかし…
「ぼ、僕達はそのっ…佐藤君と交渉してるワケでっ…」
部外者のキミには関係無いだろう、と。
必死に絞り出した声は、全く高月君には届いておらず…
「女装、したいの?佐藤サン。」
「え…!?…いや……」
いきなり話を振られた僕が面食らいつつも、即否定すれば。高月君は変わらぬ表情のまま、もう一度原君達へと向き直って。
「嫌だって、言ってっけど?」
「そっ…そーだよねぇ、あははッ…」
じっと高月君の視線を浴びせられる彼らは、
見る間に顔を青くさせ────…
『し…しっつれいしました~!!』
そう声をハモらせて。
脱兎の如く俊敏なフットワークで走り去っていった。
(そんな怖いかなぁ、高月君…)
ぼんやりと原君達の背を見送る高月君を、ちらり盗み見る。
喜怒哀楽が極端に乏しいコだけど、かなりのイケメンさんだし背だって高い。
髪色は暗めの灰色だから、金髪の上原君ほど派手でもないし。僕には大人しそうに見えるんだけどなぁ…。
噂じゃ普段は物静かだけど、喧嘩の時には別人みたいに強いらしく。上原君が随分と気にしてたから…僕もクラスの友達なんかに、それとなく彼の話を聞いてはみたんだけどさ。
結局は上原君と同じで、『不良』としてのイメージしか知られてなくって。高月君のひととなりを知る事は、叶わなかった。
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