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side.Tamotsu
「まぁ、佐藤サン達かなり目立ってたから。」
「だよね~…うわ、今頃になってスッゴく恥ずかしくなってきたよ…」
ひとりでも、あの格好は目立っただろうに。
あの日はコスプレして、更に男前オーラが百倍増しした上原君とふたりで校内を歩き回ってたからなぁ…。
嫌でも注目されちゃってたと思う。
「は~…やっぱあんなカッコするんじゃなかったよ。僕のクラスでも文化祭以来、みんなから女の子みたいな扱いされるようになっちゃってさ…」
からかわれるようになったんだ、とか…。
上原君にはまず言えないような愚痴を、さらりと口にしてしまった僕。
だってね、クラスメイトの話なんかしたりするとさ。
上原君、なんでか不機嫌になっちゃうから…。
こういう話題は、なるべく出さないようにしてたんだよね…。
でも高月君なら後輩だし、話しても良いかなって。
つい軽率にも不満を漏らしてしまったのだ。
「なんで?」
「へ?なんでって…僕みたいなのが女装なんかしても、気持ち悪いだけでしょ?」
すると高月君は更に疑問を口にして、僕は答えながらも彼の反応に首を傾げるばかりで。
どう考えたって僕のが正論だと思うんだけど…。
それでも高月君は、表情を崩す事なく僕の意見を否定して…
「佐藤サン、可愛いかったッスよ。」
あの時の僕を見て、あまりに衝撃的だったから。
告白を決意したんだと…無表情にも真剣な眼差しを向け、
高月君は淡々と、大それた台詞を吐き出した。
「ッ…や、やだなぁ~そんなジョーダン…」
「本気で言ってんスけど。」
空気的に、なんだか居心地悪くなってしまう僕は。
どうにかして、この場を誤魔化そうと試みるものの。
逆にカウンターを食らわされ、呆気なく撃墜されてしまう。
思えば一応…彼からはラブレターなるものを貰っちゃってたんだと、改めて自覚する僕。
一度意識してしまえば、途端に顔が熱くなってきた。
告白される、とか…。僕みたいな平凡な人間が、一度でも体験出来るコト自体、奇跡的な事なのに。
まさか自分が、しかも同性のこんなイケメンさんに。
真っ向から告白される日が来るだなんて、さ…。
当然、こうした状況に免疫の無い僕は、パニック寸前。今なお注がれ続ける高月君の視線に。バカみたく心音が乱された。
「あ、う…そんな、僕は────」
恋人になって早1ヶ月経つけれど…
上原君にさえ「好き」だとか言われちゃうと、すぐ緊張してしまうのに。
第三者から告げられた想定外の告白に対し、情けなくも狼狽えてしまう僕。
寧ろ上原君は、僕から告白したワケで…
こういった相手からの、一方的な好意なんて生まれて初めてなもんだから。
どう反応したら良いのかも判らなくて。
ちょっと、困ったな…
「佐藤サン?」
いたたまれず俯くと、廊下に映る高月君の影がゆらりと僕に近付く。
気配で、それが手を伸ばしているのだと判ってしまい…無意識にも肩が跳ね上がった。
その手が、あと少しで僕を捕らえる所まで伸びてきた時─────…
「予鈴…」
寸前で止まった指先。それが目線のすぐ先にあり…。
鳴り響くチャイム音に遮られ、僕に触れる事はなくなって。
ゆっくりと、離れてく。
「ごめ…僕、もう行くからっ!」
「佐藤サン…」
チャンスとばかりに駆け出す僕に。
高月君はまだ、何かを口にしかけたけれど…
「授業、始まるから…キミも早く戻った方がいーよ!」
ありがとうと手を振り、無理矢理その場を打ち切ると…僕は急いで、彼から離れていった。
「佐藤、サン…」
その間もずっと、背中に視線を感じたけれど。
自分の事で手一杯だった僕は。
彼の視線の中に馳せられた、複雑な感情を…知ることは無かった。
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