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side.Tamotsu
「保?」
「…え、ぁ…なに?」
「いや、なんかあったか?」
お昼になり、いつも通り屋上へとやってきた僕と上原君。心地良い秋晴れの下、僕が作ったお弁当を囲みまったりとして─────たいとこなんだけど…
さっきの、高月君の事が気になっちゃって…。
なんだかご飯も進まず、ぼんやり溜め息なんか吐いてしまい。
そんな僕を見かねた上原君は、心配そうな面持ちで声を掛けてくれたのだ。
「え、と…ね……」
とは言え、いざ説明しようにも。
上原君に彼の名を口にするには…些か抵抗があり。
つい言葉を濁せば、苦笑する上原君。
そんないつもの様子と違う僕を気遣ってか、上原君は敢えてムリな詮索はしてこず。ただ黙って僕の頭を抱き寄せてくれた。
ちょっぴりヘコんでた僕は、そんな彼の優しさに甘え…遠慮なく擦り寄ってみる。
「好きでいるのって、大変なんだね…」
なんとなく零れた僕の呟きを拾い、上原君の身体が僅かに揺れる。
「…んだよ、急に……」
途端に抱き締める腕へと力が込められて。
発せられた声音が、なんだか弱々しく感じた。
「ううんっ、ただ…好きになって恋人になれてさ。例えば漫画みたく、それでハッピーエンドってワケには、いかないんだなあって…」
なんて言ったらいいんだろう。
迷いながら答えたら、なんだか中途半端な気がして。
片想いしてる時は、スッゴく辛かった。
それはそういう恋をしていたからであって、勿論ドキドキしたり良いこともたくさんあったハズなんだ。
けど…最初から叶わないと諦め半分だった恋は、決して楽とは言えなくて。それが今こうして上原君と想いを通わせ、恋人としての関係を築いている。
それはそれは夢みたいで、ホント幸せなはずのに…
現実はそんなに甘くはないみたいだ。
文化祭で会った、綺麗な男の子のコト。
それから、高月君のコトも。
こんな風に思っちゃダメなんだって解ってる。
けど、ふたりが悩みの元凶なのは明白なワケだから…
要は僕の心配の種は、これからも絶えそうにないって事…と言うか。むしろ付き合う前より、増えてる気がするんだよね。
「保…」
しゅんと項垂れる僕の話を、黙って聞いてくれていた上原君。暫くは沈黙したまま、微動だにせず。
ただ、僕を抱く腕だけが…どんどんキツくなっていった。
「上原、くん…?」
妙な事を口走ったから、怒っちゃったのかも…と。
不安に駆られ、おずおずと顔を上げると…。
パチンと重なった視線に、思わず僕は息を飲む。
上原君の瞳は、普段の勇ましい印象を宿しておらず。
なんだか切なく不安定に、揺れているような気がした。
しばらく見つめ合ってから「保…」ともう一度名を呼ばれて。
返事を返す暇さえ無く、気が付いたらもう僕の唇は、
上原のソレで塞がれていた。
「ンッ…」
普段は手慣れてるそのキスにさえ、今は全く余裕が感じられなくて…。焦りを含む吐息混じりに、上原君のぎこちない舌が僕の口内を這い回る。
「んん…はぁッ……」
息も吐かせぬ激しいキスに、堪らず上原君の制服を掴んで。唇を繋げ抱き合ったまま、次には勢い良くコンクリートへと押し倒さた。
けれど全然痛みは無く。頭の後ろには、ちゃんと上原君が手を添えてくれてたから…
こんな時でさえ、優しいだなんて。
やっぱり上原君は、変わらず格好いいんだ。
「うえはら、くっ…」
ギリギリまでキスされて。
息継ぎの合間、視線を通わせる。
何か言いかけた上原君だったけど…。
上手く言葉に出来ないのか、切羽詰まったように舌打ちして。
もどかしさにまた、唇へと食い付かれた。
(そっ、か……)
なんとなくだけど、上原君の気持ちが解った気がして。
僕もなんて返したら良いかが判らなかったから。
変わりに上原君の広い背中に腕を回し、めいっぱいしがみつく。
それからヘタクソなりに、自分からも舌を出し絡めてみて…。そうすれば僅かに開かれた上原君の瞳が、ふわりと微笑み返してくれた。
「保……たもつッ…」
永いキスが止んで、今度はぎゅっと強く強く抱き締められて。僕の首筋に顔を埋めた上原君は、何度も僕の名を繰り返し紡ぐ。
腕の力とは裏腹に、その声はとても心細げで。
何気ない僕のひと言が、そうさせてしまったんだと…
今更ながら僕は気付かされるのだった。
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