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side.Tamotsu
(同じ、なんだね…)
きっと。僕だけが不安だったりするワケじゃなくて。
強くて完璧に見える上原君だって、その思いは何も変わらない。
今でこそ、落ち着いた上原君だけど。
綾ちゃんに片想いしてた時は、見てらんないくらい荒れてたし。
こんなにカッコ良くてモテモテな上原君でも、だ。
恋愛に関しては、トコトン不器用…なんだと思う。
そういう意味で言えば、肉体的な経験値が必ずしも恋愛に反映されるとは限らないワケで。
ちゃんとした『恋愛』としてならば、僕も上原君も同じレール上…つまりどっちも初心者って事、なのかもしれないな…。
「ゴメンねっ…」
つんと鼻腔に込み上げる感情に堪らなくなり。
ぎゅうっと上原君へとしがみつく。
僕を呼ぶ上原君の声が、あまりに切なく突き刺さってくるものだから…。胸の奥が締め付けられ、じんわりと目頭が熱くなってしまった。
「なんで謝んだよ…」
ゆっくりと顔を上げた上原君は、バツが悪そうに苦笑して。コツンと僕のおでこに、自分のそれとをくっつけてくる。
釣られて僕もはにかんだなら。
ちゅっと優しいキスが唇に落とされた。
「はぁ~…なんか今の俺、すっげぇダセェ気がすんな…」
深い溜め息混じりに肩を竦めてみせる上原君に、
僕は努めて笑顔で応えて。
「そんなコトないよ…」
上原君の事が好き過ぎる欲目だってあるだろうけれど。
自分だけがこんな不安なんじゃない、
お互いに同じ気持ちを抱えてるんだって思えば…
キミを知り、前よりもずっとずっとずっと、
好きになれた気がするから。
それってスッゴく、素敵なコト…なんじゃないかな?
「お前は俺を、美化し過ぎなんだよ…」
けど…いつになく弱気な上原君は、言葉足らずな僕の所為で卑屈な事を口走ってしまう。
だから僕は…
「……ね?」
「ん?」
ちょっとだけ強引に、上原君の首に回した腕を自分に引き寄せて。
「大好きだよ……昭仁君…」
恥ずかしかったけど、今だけ。
平常では口にしない彼の名を、耳元で囁いたなら…
「ッ……」
今の僕は、分かり易いくらい真っ赤になってるだろうから。とても見せられるものじゃなかったけど。
口付けた上原君の首筋も、同じくらいに熱くなってるような気がしたんだ。
「たく…ホントお前には敵わねぇな。」
きっと真っ赤であろう上原君も、そうボヤくよう僕の耳元に顔を寄せ、息を吐いたけれど。
(僕だって、キミには全然敵わないんだよ…)
まだ自信持ってそれを実感するには、色々と足りない僕だけど。今日この瞬間でぐっと縮まった距離に…少しだけ安堵する。
それからはお互い言葉も無いまま、ただ身体をくっつけて。頭上に広がる秋の空だとか、流れる雲にぼんやりと思いを馳せ…温もりを分かち合う。
そよぐ風に、キラキラと上原君の髪が揺れている。
涼しげに見えたそれが…今は火照った体温にしっとりと馴染み、心地いいなと思った。
「保……」
名を紡いだその声音には、もう不安や迷いは感じられず。
「愛してる…」
そっと伝えられた甘い言葉を胸に。
僕は目を閉じて…
与えられるであろう柔らかな感触を、待ち侘びた。
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