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side.Tamotsu
(ヒドいよ、上原君っ…)
ひたすら全速力で、廊下を駆け抜ける。
そんな僕を注意してくる先生も省みず、一心に彼を目指し走った。
とことん甘くて優しい上原は。
きっと、僕の事を思って黙っていたんだろうけど…。
こんな風に扱われると、なんだか上原君が何処か遠くに行ってしまったみたいで、
スゴく寂しいよ…
(お願い、間に合って…!)
綾ちゃんの話じゃ、高月君の方からわざわざ教室までやって来て。上原君を呼び出したらしいけれど…。
どうもこのふたりの雰囲気が、話し合いで済むような空気では無かったようで。さすがの綾ちゃんも、ずっと気に病んでたみたいだ。
僕には内緒にと口止めされた点にも、納得出来なかったらしくて。結局は、黙っていられなくなったようだけど…。
上原君は勿論だけど、高月君とは喧嘩なんかしてほしくない。立場上、それが相容れない者同士だとしても。
喧嘩だけは、絶対にしちゃダメなんだ…。
(僕の所為だッ…)
真意はどうあれ、高月君は僕に告白してきたんだから。
上原君という恋人がいる以上、僕が彼にちゃんと話をしていれば…こんな事には、ならなかったのかもしれない。
告白の事をもう少し真剣に受け止め、対処していたら。上原君にだってあんな辛そうな顔…させずに済んだんだ。
「はぁ…はぁッ……」
上履きのまま、校庭を突っ切って人気の無い裏手へと向かう。
最悪の場面を想像しつつ、縺れそうになる足を奮い立たせ、校舎の角を曲がると…
「!!…上原く──────」
視界に彼の背を捉え、名を口にしかけたのに。
それは全く予想だにしなかった光景を、目の当たりにしたため…
僕は言葉を失い、その場に立ち尽くしてしまった。
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