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side.Tamotsu
「あらら…偶然って怖いよねぇ。」
そう不敵に笑うのは、
文化祭の時…僕を訪ねてきたあの綺麗な男の子で。
「保……」
彼の腕は、僕の大好きな人の首へと絡み付き…
ぴったりと隙間無く、お互いの身体が密着していた。
受け入れ難い光景に、眩暈がし動けない。
どうして?上原君は、高月君に呼ばれたんだよね?
なのになんであの男の子が…
不安の波が、嫌な予感ばかりを抱かせる。
上原君の過去、あの男の子が口にした意味深な台詞、
そうして目の前の現実────…
それらがひとつに繋がっては、脳裏を駆け巡り。
混乱状態の僕は、なにがなんだか判らず…
頭の中はもうグチャグチャになっていった。
「っ…………」
救いを求め、上原君へと視線を馳せたのに。
その目は気まずそうな色を、ありありと映し出し。
余計に僕の不安を、煽ってくるから…
「ど、してっ……」
聞きたい事はたくさんある。
だけど何ひとつ声にはならなくて。
なんとか絞り出したそれも不安定に、
途切れ途切れになる。
「保……」
違うって言って欲しい。
誤解なんだって、キミの口から伝えて欲しいのに。
上原君は何を迷っているのか、なかなか僕に答えをくれない。
その間もずっと、ふたりは抱き合うような格好のまま。もう見てられなくて、目を逸らしたら…
「そう言えば自己紹介してなかったよね、佐藤 保君?ボクはね、マキって言うんだ~。」
ヨロシクね、と場違いなくらい明るく名を名乗る“マキ君”。
さすがに返事する気にはなれなくて。
僕は黙って唇を噛み締めた。
「その様子だと、知ってるみたいだね?僕と彼の関係…」
わざとらしく語尾を強調され、グサリと胸が悲鳴を上げる。
「キミもいっぱい可愛がって貰ってんでしょう?手慣れてるもんね~、キミの彼氏。」
「黙ってろ、マキ…」
そこで漸く上原君がマキ君を突き放す。
ふたりが漸く離れた事に、少しだけ安堵したものの…。
上原君の口から、″彼の名″が紡がれた事により。
内ではまた別の感情が…生み出されてしまった。
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