57 / 117

55

side.Rikuto 取り柄なんて無かった。 楽しいと思えるようなもんも、何も。 ただ無気力で退屈な日々。 虚しさが満たされる瞬間は、いつも局面。 拳を握り締め、骨を打ち砕くような感覚の最中───… 気付いたら、ソレしか思い付かなくなってた。 『陸人って強ぇよな、マジで。』 連んでるダチが、まるで自分の事みたくはしゃぎながら言った台詞。 大して何も感じなかったけど。次にソイツが告げた事実に、 『3年にさ、″上原″って超ケンカ強え奴いんじゃん?お前とどっちが強ぇかな?』 初めて他人に興味みたいなものを抱いた。 今まではただ、買うだけで充分だった。 でも俺よりもっと強い奴が身近にいるんだと知って。 妙に胸が騒いだのも事実。 噂じゃその“上原”ってのは中学の頃、相当荒れてたらしく。この辺じゃ負け無し、まさに最強とか言われてるような奴だった。 そんな有名人が、同じ高校にいたのにも全く気付かないなんて。 それもそのはず、ソイツは俺が入学した春から急に大人しくなり。噂からくる面影も何処か置き去りに、自らは一切喧嘩をしなくなっちまってたんだから。 校内で何度か遠巻きに見かけたソイツは、外見こそ派手だったが。いつも一緒にいる貧弱そうな生徒といい、凡そ喧嘩人としての印象は欠片も感じられない。 それでもなんとなく、俺と似たようなみたいなのを感じたから。実際に本人目の当たりにし…ガッカリしたってのが、正直な感想だった。 けど… (俺とは違う…) 仲良さそうにダチと話し笑うソイツは。 俺同様に不良と呼ばれていても、中身は似ても似つかないのだと。 それどころか俺が知る由もないような、満たされてるような感覚を。ああして手にしているんだと思ったら… なんか、面白くなかった。

ともだちにシェアしよう!