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side.Rikuto
取り柄なんて無かった。
楽しいと思えるようなもんも、何も。
ただ無気力で退屈な日々。
虚しさが満たされる瞬間は、いつも局面。
拳を握り締め、骨を打ち砕くような感覚の最中───…
気付いたら、ソレしか思い付かなくなってた。
『陸人って強ぇよな、マジで。』
連んでるダチが、まるで自分の事みたくはしゃぎながら言った台詞。
大して何も感じなかったけど。次にソイツが告げた事実に、
『3年にさ、″上原″って超ケンカ強え奴いんじゃん?お前とどっちが強ぇかな?』
初めて他人に興味みたいなものを抱いた。
今まではただ、買うだけで充分だった。
でも俺よりもっと強い奴が身近にいるんだと知って。
妙に胸が騒いだのも事実。
噂じゃその“上原”ってのは中学の頃、相当荒れてたらしく。この辺じゃ負け無し、まさに最強とか言われてるような奴だった。
そんな有名人が、同じ高校にいたのにも全く気付かないなんて。
それもそのはず、ソイツは俺が入学した春から急に大人しくなり。噂からくる面影も何処か置き去りに、自らは一切喧嘩をしなくなっちまってたんだから。
校内で何度か遠巻きに見かけたソイツは、外見こそ派手だったが。いつも一緒にいる貧弱そうな生徒といい、凡そ喧嘩人としての印象は欠片も感じられない。
それでもなんとなく、俺と似たような匂いみたいなのを感じたから。実際に本人目の当たりにし…ガッカリしたってのが、正直な感想だった。
けど…
(俺とは違う…)
仲良さそうにダチと話し笑うソイツは。
俺同様に不良と呼ばれていても、中身は似ても似つかないのだと。
それどころか俺が知る由もないような、満たされてるような感覚を。ああして手にしているんだと思ったら…
なんか、面白くなかった。
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