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side.Rikuto 喧嘩するのは嫌いじゃない。 とはいえ、趣味ってわけでもないから。 機会があれば一度本気になったアイツと、やり合ってはみたい…ぐらいにしか、考えてはいなかったんだ。 でも… 『なぁ、陸人。従兄弟のよしみで、ちっと頼みがあんだけどよぉ?』 そんな時、他校に通う親戚でひとつ上の和博《かずひろ》から。ある誘いを受けた。 『お前さ~、あの上原とタイマン張ってみてぇとか…言ってたよな?』 和博は正直、クソみてぇなヤツだったけど。 なんだかんだガキの頃からの腐れ縁で。 高校入ってからは男を好きになったとか言い出して。 挙げ句、いきなり呼び出してきたかと思うと。 訳も分からず自分の“恋人”だとか言うヤツを、紹介してきた。 『へぇ───…キミが和博の従兄弟クン?結構良い男じゃん。』 そいつは“マキ”とだけ名乗った。 第一印象はその時から今も変わらず、だってこと。 和博は何を血迷ったのか…この女みてぇな顔した“マキ”にベタ惚れしたらしく。体の良い犬に成り下がっていた。 俺にまで色目を使うくらいだから。 和博が本命っの恋人てわけでも、ないだろうに…。 『キミさ、あのと同じ高校だよね?』 マキって野郎が俺に持ちかけたのは、たぶん“復讐”。 理由は明かさないし、興味も無かったが…。 和博の口振りからしても、相当に上原を恨んでるのは確かだった。 『とりあえずキミには、彼の恋人に接触して欲しいんだけど…』 上原の女でも、誘惑しろとでも言うのだろうか? 正直その手の話は面倒なだけだと、気乗りしなかったんだが… 『キミも知ってるんじゃないかな?彼の恋人が誰なのか…』 “いつも一緒にいるでしょ?” ────そう告げられハッとした。 学校内で常に上原の傍にいるヤツなんて、殆どいない。アイツは群れるタイプじゃないし、寧ろ近寄ろうなんて馬鹿もいないだろうし… 俺が知る限りでは、ただひとりだけ。 『意外でしょ?タラシだとか、女の噂が絶えないような、あの上原がさ…』 マキの計画の内容にはかなりウンザリした。けど… 『…恋人ってのに近付いて、どうすんだ?ソイツのこと…』 まともに生きてるつもりは無いが。 陰でコソコソ と悪事に荷担するってのも、柄じゃないとは解ってたんだ。 『ふふ…それは了承と受け取って、いいのかな?』 ただ、知りたかった。 『…………』 アイツが手に入れたが、なんだったのか…を。

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