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side.Rikuto その日を境に、佐藤 保に対する生徒らの態度が一変した。 上原を恐れてか、あからさまに声を掛けたりするヤツはいないとしても。遠巻きに、下心を向ける輩が増えていったから。 好都合…だと思った。 マキの指示で出した手紙は予想通りシカトされたけど。 次の日の朝、上原の妨害に合いながらも。 最初の目的を果たすことは出来た。 その後も上原の目を盗んでは、佐藤 保に接触。 上原は俺を完全に敵視してたが。 佐藤…サンは見た目そのままに、大人しくて人懐っこい人だったから。大して俺を警戒してはいないようで… それが少し、嬉しかった。 その日は偶然、廊下であの人を見つけた。 トイレから出てきたところを、見知らぬ生徒二人組に捕まえられ。何処かへと連れて行かれる後ろ姿を。 どうしようか迷いながらも、俺の足は吸い込まれるみたく無意識に。あの人の姿を…追い掛けていた。 『ひ、被写体…?』 立ち聞きするには気が引けたが、妙な好奇心には勝てず。こっそり様子を窺うと。 さっきの生徒らは写真部らしく。文化祭での佐藤サンの変貌ぶりを見て、モデルを頼みにきたみたいだった。 『そう言われても…』 鼻息荒く迫ってくる2人に、困惑する佐藤サン。 どうやら女装はもうしたくないみたいだ。 なんでだろう? 渋る佐藤サンに痺れを切らし、息巻く2人。 やはりコイツらも上原が怖いからかなのか…かなり焦ってるみたいだ。 じわじわ壁際へと追い詰められていく佐藤サンは、 今にも泣き出しそうな顔をしていて。 そんな困ってる姿を見ると… 何故だか俺は、落ち着かなくなった。 このまま黙って立ち去るつもりだった。 けど、いてもたってもいられなくなった俺は───── 『嫌がってるだろ?』 思わず、その場に飛び出してしまった。 後から思えば…それは目的上、まさに好都合だったのかもしれないが。 この時の俺は、和博やマキの事なんて眼中に無かったと思う。 『ありがとう…助けてくれて。』 そう言って微笑んだ佐藤サンの表情が、あまりに純粋で眩しくて。反応しきれず、つい素っ気なく返してしまった。 すると佐藤サンは俯き黙ってしまったから。 何か言わなきゃと思い。俺は思わず、なんとなく気になっていた疑問を口にしていた。

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