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side.Rikuto 『なんで…女装、したくないの?』 『そりゃあ、僕も男だし…』 唐突なそれに首を傾げながらも、律儀に答えてくれる佐藤サン。確かに男が女装だなんて可笑しな話だ、俺なら頼まれても絶対にしないだろう。 けど、なんでだ… 『僕みたいなのが女装なんかしても、気持ち悪いだけでしょ?』 そんなことない、この人のなら見てみたいと思った。 だから… 『佐藤サン、可愛かったッスよ。』 普段ならまず口にしないような台詞を、自然と口にしていた。途端に顔を赤くする佐藤サンの反応も、普通に可愛いと思えてしまうし。 俺の言葉が冗談だと思われ、本心だとはっきり述べると。更に戸惑いを露わにする佐藤サン。 (なんだ、コレ…) 目の前で慌てるこの人を見てると、不思議な気持ちになる。 もっと知りたい、話がしたい。 手を伸ばせば、届くだろうとか…考えてたらもう、俺の手は無意識に動いていて────… けれどもそれは、タイミング良く鳴り響いたチャイムの音により…阻まれてしまった。 ひと言告げ、逃げるみたく走り去っていく小さな背中を…目で追い掛ける。 『佐藤、サン…』 きっかけは上原だったハズなのに。 今では別のモノを、追い掛けようとしてる。 歪んだ理由から始まった好奇心。 ソレは形を変え、けれど着実に。 俺の中で確かな存在感を放ち、膨らんでいた。 後日…俺は和博とマキに頼まれ、上原をひとり校舎裏へと呼び出した。 俺の役割はとりあえずそこで終了。 万が一、上原がキレて暴走した時の為にと、近場で待機しろと言われ。マキと上原の遣り取りを伺ってはいたが… 俺の心はずっと、此処にあらず…だった。 なんとなく、ここにいないの事を考えながら。この現状に飽き、帰ってしまおうかとか思ってた矢先───… 『うえ、はら…くん……』 が、来てしまった。 間の悪い事に、上原とマキが抱き合ってる場面に遭遇してしまったあの人は…今までの笑顔なんて見る影も無いほどに、悲しげな目をしていて。 その原因が俺にあるのだと思ったら。 すごく、苦しくなった。 『保…!!』 泣きながら走り去ってくあの人を、追い掛けようとした上原。それを強引に留めるマキ。 何か2人で言い争いを始めたけど。 俺にとってはもう、どうでもいい事だった。 (あんたは、そんなにもアイツが好き…なのか…) あの人が心を痛めるのは、全部アイツの為だけだ。 その事実が、俺を静かに追い詰める。 (このまま…) もし、ふたりが別れてしまったら。 は、どうなるんだろう? きっとすごく苦しんで、涸れるほど泣いて。 身も心もボロボロに…なってしまうんだろう。 それでもあの人が、アイツから離れるのなら───… そんな最低な事を。俺は、本気で考えてた。

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