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side.M
「ごくろーさま、陸人。」
上原が不機嫌に去っていった後、姿を見せた陸人にボクは声を掛けた。
なぁんかコイツも。
あのふたりみたく、浮かない顔してる。
なに考えてんだか、全然解んないヤツだけど。
見た目が良い上、和博みたく鬱陶しいコト言わないし。
今のとこは大人しくて従順だから。
役には立ってくれてるけど─────…
なんとなく、上原と同じくらいイラつくんだよねぇ。
何故かってそりゃあ…
ボクにちっとも懐かないから、だよ。
「……………」
ホラ、この憎たらしい目。
ボクのコトを、まるで汚物でも見るみたいにさ。
その目がまるで、あの時のアイツを連想させるから。ほんとムカつくよ。
会って間もない頃は、静かにしてたクセに。
ここんとこ様子がおかしいんだ、この子は…。
「……なに?」
敢えて笑顔を取り繕って問い質すと、視線だけでボクを捉えて。
「いや…」
予想通り素っ気なく返してきた陸人に、不愉快さが増した。
「そういえばさー、キミの方はどうなの?」
なんとなくだけど…ボクには心当たりがあって。
確信を突くために、自ら餌となる話題を切り出してみる。
「佐藤君…そろそろ本腰入れて、落としてくんないかなぁ?」
名前を強調して告げれば、思った通り反応を示した陸人。
極僅かな動揺だったけど。無表情に見えて、意外と分かり易いんじゃないの?…この子。
「少しは仲良くなれたんでしょ?もう少しアプローチ掛けてさ…。あのコすぐ流されそうだし。キミが本気出せば、軽く落とせちゃうんじゃない?」
ワザと見下すような、冷たい口調で言い放つ。
すると陸人は無表情だったものを、あからさま険しく強ばらせた。
「…………」
ボクと話すのさえウンザリ…とでも言いたげな顔、してくれちゃって。
最初は無口で、何考えてんだか解らないようなヤツだったクセに。いつの間にか随分と、感情豊かになっちゃったんじゃないの。
その要因ってのがまた、アレなもんだから。
ホントつまんないんだよねぇ。
「いっそのこと、どっかホテルにでも連れ込んで…」
「やめた。」
なおも挑発的に煽っていると、だんまりを決めてたハズの陸人が静かに口を開く。
その声音はいつも通り、淡々としてはいたけど…。
なんとなく、怒気を孕んでいるように思えた。
「なに…?急にどうしたってのさ?」
まぁ、そうくるんじゃないかと踏んでたんだけどね。
分かってたとは云えど、やっぱり面白くはないよね。
「別に。てか、そろそろお前も諦めたら?」
「は?」
全てを見透かしたように告げる陸人に、ボクの顔から笑みが消える。
じっと睨み付けてやれば、酷く冷めた視線で返されて。互いの間に嫌な空気が流れた。
「こんなコトしたって、アイツはお前を見やしねぇよ。」
解ってんだろと言われた気がして、ボクの表情から険しさが増してく。
ワザと遠回しに言ってくるもんだから。
余計にイライラが募った。
「じゃあな。和博にもそう伝えとけよ。」
「ちょっ…」
一方的に喋った陸人は、話が終わったとばかりにくるりと背を向ける。
…と、ボクの制止の声も聞かずして。
早々といなくなっしまった。
「チッ…どいつもこいつも……」
気に入らない。イライラする。
上原も陸人も、どうしてこうもボクを馬鹿にすんのか。
それに…
(あんなのの、どこがいいんだよ…)
ボクには一切興味を示さないクセに。
陸人までもが、あんな冴えないチビに惹き寄せられてるなんて…。
そんなの納得いくわけがない。
“─────諦めたら?”
何を?
全然意味が解らないよ。
だってボクが望むのは、そう…
アイツが、上原 昭仁が。ボクへの仕打ちを悔いるぐらいに、たくさん苦しめばいいってコト。
それだけだ。
だからアイツが佐藤 保の事を、
本気で好きだっていうのなら────…
ふと閃き、ボクはニヤリと笑みを零しながら携帯電話を手にする。
画面を開き…履歴からボクの従順な犬の名前を出し、
通話ボタンを押して。
「…もしもし、和博?ちょっといい?」
浮かべた表情とはかけ離れた、甘えた声で話し掛け…
「キミの従兄弟、張っといてくんない?」
裏切りの代償は…高くつくよ、陸人?
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