63 / 117

61

side.Tamotsu 「お母さん、もう仕事に行っちゃったんだ…」 昨日は殆ど眠れなかった。 ほんと壊れたみたく、朝方まで泣いてさ…。 晩ご飯の支度も何も手につかず、気付いたら泣き疲れ…眠ってしまったみたいだ。 いつまで経っても動く気にはなれず、 中途半端な微睡みの中、ずっと布団の中にうずくまる。 さすがにそろそろ起きなきゃと、重たい身体を擡げ部屋を出てきたんだけど…。 お母さんは既に仕事に行った後のようで、テーブルの上にはメモ書きが残されてた。 目を通せば、家事をサボった事を咎めるわけでなく。 逆に僕を気遣うような文面と、買い出しして欲しい物のリストが遠慮がちに綴られていて。 冷蔵庫の中をチェックしてみたら、確かにがらんとしていた。 昨日はスーパーにも寄らなかったからな… 正直、出掛けられるような気分ではなかったけれど。 僕のために必死で働いてくれてるお母さんの事を思うと、そんなワガママ言っていられない。 だってお母さんが、今みたく積極的に働き出したのは。 僕の将来を考えてのことだったから…。 僕としては、大学に行く理由も無かったし。 経済的負担も考慮して、進学はしないからと以前からお母さんに話してはあったのだけど。 『いーのいーの!もしかしたら保も心変わりするかもしれないでしょう?』 なるべく夢の選択肢を多く与えてやりたい。 保はずっと家の事に係りっきりで、好き勝手させてやれなかったから…と。 お母さんは、ふくよかな顔を綻ばせ豪快に笑いながら。僕にそう、言ってくれたんだ。 僕が高校2年生になった頃から、夜勤のが稼ぎがいいからと。休み以外は殆ど接しない日々が、続いてきたけれど…。 それでも母子の絆は絶対だし、そんな母のためなら。 少しでも役に立ちたいって…心から思うんだ。 現実逃避みたいに、母の事を考えながら出掛けるため身仕度を整える。 しかし自分の『進路』で思い出してしまったのは、 やっぱり上原君のコトで… (確か今日はバイトだって、言ってたっけ…) 夏休みに働いてた親戚の職場で、今もたまにだけどバイトを続けてると話してくれた上原君。 休みの日に会えなくなるのは、寂しかったけど。 なんだかスゴく頑張ってるみたいだったから…本音は言えないままだった。 (今頃は…) 時計を見上げたら、とっくにお昼を通り越していて。 汗水流して働いてる彼の姿を思い浮かべたら、自己嫌悪に襲われてしまう。 (よそう…こんなコト……) ひとりで考えても仕方ない。 僕は渦巻いたモヤモヤを打ち消すよう、首を振って。 何かから逃げるみたいに、急いで外へと飛び出した。

ともだちにシェアしよう!