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side.Tamotsu 「はぁ……」 10月も半ば過ぎ。ちらほらと秋の訪れを思わせる景色の中、心此処に在らずな僕はフラフラと歩道を進んでく。 空は燦々と晴れ渡っているハズなのに。 泣きっ面に瞼が腫れている所為か、なんだか灰がかって見えた。 (このまま、逃げてちゃダメだよね…) 合わせる顔がないからと… 昨日、無視してしまったコトをすごく後悔してる。 だからって、今更それを謝る勇気さえなくて。 考えれば考えるほどに、僕は罪悪感を募らせていった。 (上原君…) あんなに泣いたのに。 上原君のコトを思うと、すぐにまた涙が滲んでくる。 男のクセに…なんでこんなに弱いんだろ、僕…。 心身共に疲れ果てた身体で、買い物袋を両手にぼんやりと家路を歩いてく。 …と、行き着けのスーパーを出てから5分くらい歩いただろうか。 「佐藤サン。」 ふと僕を呼ぶ声がして、俯き加減だった頭を擡げると… 「高月、君…?」 視線を向けた先には、私服姿の高月君が立っていた。 「買い物?」 「あ、うん。…偶然だね、高月君もお出かけ?」 「俺は…ダチんとこからの帰りッスよ。」 答えてから、何故か口を噤んでしまった高月君は。 瞬きも疎らにじっと僕を見つめてくる。 無表情な所為か、その視線がちょっと落ち着かない。 「えと、こっ…高月君?」 堪らず名を呼ぶと、高月君は黒目を瞬かせて。 「陸人。」 「え…」 「陸人でいいッスよ。」 突然の申し出に、今度は僕が目を丸くした。 「や、でもっ…」 僕は別に構わないんだけど…。 上原君に、彼とはあまり慣れ合っちゃダメだって言われてたし。 その事を思い出した僕は、どうして良いか判らず口ごもってしまう。 「ダメすか?」 けれど首を傾げ問う高月君が、なんとなく寂しそうに見えたから。 (そうだ、今はそれどころじゃないんだ…) 喧嘩した……のとは違うと思うけど。 昨日はあんな無視の仕方しちゃったし。あれ以降は今日一日、なんの音沙汰も無くなってしまってるから… もうそんな事を気にしても…しょうがないのかもしれない。 「佐藤サン?」 つい高月君がいるのも忘れ、しゅんと項垂れてしまった僕に。頭上から心配そうに名を呼ばれ、僕は慌てて彼を仰ぎ見る。すると、 「俺も……保サンて、呼んでいいスか?」 まるで子どもみたいな眼差し…と言っても、その表情は相変わらずの無機質さではあったけれど。 そんな目をされたら、僕もダメだとは言えなくっなってしまい… 「…うん、いいよ。」 抵抗なくあっさりと受け入れ、笑顔を浮かべて見せた。そうすれば少しだけ、彼も微笑み返したがする。 「家に、帰るんスか?」 聞かれてうんと頷くと。 高月君…改め、陸人君は手を差し出し、 「貸して?」 そう告げるや否や、僕から買い物袋を全て取り上げてしまった。さすがにそれは悪いからと、遠慮しようと思ったのだけど… 「いい。」 ひと言で返されてしまい。 頑に譲らぬ彼に根負けした僕は、その厚意に甘えることにした。 僕と陸人君という、見た目からも奇妙な組み合わせで夕暮れ前の道を行く。この季節にこの時間帯ともなると、緩やかな風は少しひやりとして肌寒く感じる。 でもそのくらいの方が、今の腫れぼったい顔には… 丁度良いかもなとさえ思えた。

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