69 / 117

67

side.Tamotsu 「陸人くっ…!」 「保サン、下がってて…」 叫ぶ僕を振り返ることなく、手で制し。 陸人君は和博君を見据えたまま、静かに対峙する。 向こうも陸人君の出方を伺うよう、不敵な笑みを浮かべつつ身構えた。 (どうしよう…これじゃ、) 陸人君がかなりの実力者だって事は、噂では知ってたけれど。この人数を相手に、どこまで通用するかなんて…素人の僕には計り知れない。 かと言って僕なんかが、どうにか出来るような状況でもなく。出しゃばった所で、きっと足手まといにしかならないだろうから───… 窮地に立たされ、それでも頭の中で必死に打開策を考えてみるのだけど… (こんな時…) がいてくれたら…なんて。 あんなコトがあったのに、すぐ依存してしまう。 そんな自分に歯痒く思いながらも。 脳裏に過ぎる彼の姿に…胸が痛く締め付けられた。 「おーら、ボサッとしてんじゃねーゾ!」 「ひゃッ…!」 こんな局面にも関わらず、物思いに耽ってしまった僕の肩を、少年のひとりがいきなり掴んできて。 乱暴に振り向かされ、すぐさま顔目掛けて拳が繰り出される。 「ッ────!!」 思わず目を瞑り、固まっていると───── 「…ぁ………」 瞬間、鈍い打撃音が響いたハズなのに。 僕自身には全く痛みは無くて。 恐る恐る開けた視界に入ってきたのは、 「陸人君…!!」 僕が受けたハズのそれを、 自身の頬で受け止める陸人君の姿だった。 「チッ…邪魔しやがって…」 決して緩くはない拳を自ら食らった陸人君。 なのに彼は倒れることもなく…。頬に拳をめり込ませたまま、堂々と僕の前に立っている。 そんな陸人君にたじろぐ少年は、虚勢ともとれる台詞を吐き捨てたけど… 「この人には、」 “触れさせない────…” そう…言い終わる頃にはもう。 少年の身体は、遥か宙を舞っていた。 「お前も上原も、こんなチビのどこがいんだろな…」 一気に張り詰めた空気を払拭するよう笑う、和博君。 「さっき言ったよな、和博…」 目の前の陸人君も、静かに口を開く。 「従兄弟のよしみで、お前の馬鹿に付き合ってきたけど…」 声は低く、その中には普段の陸人君とは思えぬほど、負の感情に溢れていて…。 いつの間にか、彼と正面から向き合っていた和博君からも。ふつりと笑みがかき消える。 「上原がどうなろうと、知った事じゃねぇけどな…」 その場全体が凍りつく中で、陸人君の声だけが熱を放ち。 「この人を傷付けるなら…俺はお前を、絶対に許さない。」 垣間見た陸人君の横顔には、 先ほどまでの同情的な色は一切見当たらず… そこにあるのはもう、静かな憤りでしかなかった。

ともだちにシェアしよう!