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side.Tamotsu
「息上がってんぞ、陸人?」
そう言って唾を吐き捨てた和博君は、なんだか焦っているように見えた。
感情を剥き出しにした陸人君は、とても強くて。
この人数を相手に全くの無傷…とまではいかなかったけれど。戦う彼の背中を目で追ううちに、僕の中にあった恐怖心や不安は、段々と薄れていき…
それぐらい…彼の強さは頼もしかった。
陸人君の実力の程は。僕より遥かに彼の事を知っている、従兄弟の和博君の表情を見れば…一目瞭然だろう。
「後は、お前だけだ。」
和博君がさっき言った通り、陸人君は傷付き呼吸も荒くなっていたけれど。その眼光は未だ衰えておらず、まっすぐに従兄弟の姿を射抜いてみせる。
それを受け対峙する和博君は、眉間を歪ませると。
不愉快とばかりに舌打ちを漏らした。
「よく言うぜ。俺に今まで一度も勝った事ねぇクセによ!そんなんで勝てると───」
虚勢を張るかのように叫ぶ和博君。
しかし彼が言い終わるのを待たずして、陸人君は地を蹴り駆け出していた。
「ッ……!!」
遠巻きに見守る僕でさえ、一瞬の動作に追い付けず。
気付けばもう和博君の目前、陸人君の拳が素早く放たれる。
…────が、それは鼻先スレスレでピタリと寸止められた。
「俺はお前と…本気でやり合った事なんか無い。」
淡々と言い切る陸人君の声と視線が、冷たく和博君の内に突き刺さる。
途端に和博君は顔を真っ赤に染めて。
悔しそうに青筋を立て、憤慨した。
「陸人…テメェ……!」
暫し睨み合うふたりを、僕は複雑な心境で見守る。
今はこうして対立してるけど…
口で言うほど、陸人君が従兄弟である彼を嫌ってるようには思えない。それは今の行動からも伺えるだろう。
和博君に至っても、それはきっと同じなんじゃないだろうか。
…とは言っても、彼の人間性は陸人君とは真逆。
お世辞にも“良い人”という印象は、持てなかったけど。
「チッ…」
拳を向けたまま、微動だにしない陸人君。
その沈黙の重圧に耐えかねたのは和博君であり、怯んだようじりじりと身を引いていく。
その間も、陸人君はまだ動く気配がない。
「まあいい…今日の所は勘弁しといてやるよ。」
彼が合図すると、倒れていた不良達がヨロヨロと立ち上がる。完全に気を失っている子達は、無理やりに抱き起こされていた。
「だがよ、お前が俺達を裏切るってんなら…」
覚悟すんだな────と。
捨て台詞に、意味深な笑みを湛える和博君は、
「せいぜい大好きなそのチビを守ってやるがいいさ。」
「…………」
最後に僕をニヤリと一瞥すると、仲間の少年達を従え、和博君は嵐のように去っていった。
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