71 / 117
69
side.Tamotsu
「ッ…はあ~───…」
和博君達の姿も見えなくなり。
張り詰めてた緊張感がプツリと切れた僕は、その場にすとんとへたり込む。
こういう、修羅場って言うのかな?
以前、上原君の知り合いに絡まれた時に一度だけ、
経験はしていたのだけど…。
僕は上原君が彼らと喧嘩してた最中はずっと、気を失っていたわけで。実際に体感するのは初めての事だったから…正直すごく、怖かった。
僕なんて本来は喧嘩とは無縁の、一般人だもんね…。
「保サン…?」
そんな僕に歩み寄る陸人君は。
すっと目の前へと屈んできて、心配そうな面持ちで顔を覗き込んでくる。
応えて見上げれば、彼の体に刻まれた生々しい痣や傷が目に留まり…。途端にさっき僕を庇ってくれた時の事や、鮮やかな喧嘩の光景が頭の中を駆け巡ってきて。
なんだか胸が苦しくなった。
「ごめ、ん…僕のせいだねっ…」
震える手を、恐る恐る彼の頬へと伸ばす。
陸人君が何故、身内だと言う彼と喧嘩しなきゃいけなかったのか…深い理由までは判らないけれど。
その要因のひとつに、僕が絡んでる事は間違いないだろうなって思って…。
そしたら罪悪感に駆られてしまい、熱くなった目頭からポタポタと感情が溢れ出した。
「どうして?あんたは何も悪くない。」
むしろ巻き込まれた一番の被害者じゃないか…と。
告げた陸人君本人が、とても悲しげに笑ってみせる。
それが余計に痛々しくて。
堰を切った涙は更に溢れ、どうにもならなくなった。
「ごめん、怖がらせて…」
子どもみたく泣きじゃくる僕を見兼ね、陸人君の手が遠慮がちに僕の頭を撫でる。
不器用なのに一生懸命に優しいその感触が、思わず上原君のそれと…重なってしまい。
堪らず胸の奥が締め付けられた。
「卵も、グシャグシャだな…」
彼が視線で振り返った先には、無惨な姿と化したスーパーの袋達。
申し訳なさそうに弁償するからと告げる陸人君に、僕は慌てて頭 を振る。
「そんなのいらなよ…!」
何故キミは…こんなに傷付いてまで、僕なんかに優しくするの?
つい最近知り合った僕なんかの為に、小さな時から知ってる従兄弟と喧嘩までして…なんで?
「僕は、キミが無事ならっ…」
ホント、怖かったんだ…あんな人数を相手にして。
もしもの事があったら、僕ひとりじゃどうにも出来なかっただろうし。
そんな最悪な事態、考えただけで僕は────…
ともだちにシェアしよう!