72 / 117
70
side.Tamotu
「保、サン…」
「ごめんっ、ごめんねッ…」
年下のキミが頑張ってるのに、僕は何も出来なかった。
それどころか、僕なんか庇ったせいで怪我までさせちゃうなんて。ホント情けないったらないよ…。
だからこんなダメなヤツ、嫌われたって当然なんだ。
好きになってくれたのも何かの間違いかもしれないし、きっともう───…
「ッ…ふぇッ……」
糸が切れたみたいに、溢れ出す感情は。
決して今起きたばかりの惨事が全てではなかった。
考えないようにしてた一番の痼 。
その上に色んなモノが合わさって…。
僕はもう訳も判らず、感情に任せ。
ただただ泣きじゃくってた。
「保サン、泣かないで…」
優しく髪を梳いていた手が、ふわりと僕の頬を包み込んで。じわじわと彼の熱を伝わらせる。
目が合えば、陸人君はとても辛そうに唇を噛み締めて。僕を細く見返した。
「陸人く…」
名前を呼ぶと、僅かに揺れる瞳。
そこには普段見せる事の無いような、彼の感情が滲み出ており…。真っ直ぐ僕に向けられるから、ぼやける視界で懸命にそれを見上げた。
街中にも関わらず、辺りは異常な静けさを保ってて。
僕の啜り泣く声だけが建物の隙間に響き渡る。
「っ─────…」
そんな中、徐に近付く陸人君の顔。
混乱した頭と、ぼやけた視界に。
一瞬反応出来なくて…
「ンッ……」
気付いた時にはもう…
僕の唇は、彼のソレによって塞がれていた。
突然の事に状況が把握出来ず、思考は真っ白になり。
入り乱れる頭の中でなんとか整理する。
けれども僕がソレを理解するよりも早く。
陸人君の顔は、ゆっくりと離れていった。
「ぇ…ッ……」
信じがたい展開に、絶句する僕。
対して陸人君はというと、どこか吹っ切れたような…爽やかな表情をしており。
それが余計に、僕を困惑させる。
(な、なん、でっ…?)
キス、今の、キス…されたんだよね?…と。
改めて自身に問い掛ける。
一体全体、どうしてこうなったのか?
パニック状態でひとりオロオロしてると、陸人君はふわりと苦笑いした。
「とりあえず、買い物し直そう?」
唐突にそう切り出し、微笑む陸人君は。
さっきまで喧嘩してた人物とはかけ離れ、清々しいとばかりの表情を見せつける。
あまりの変わりように目を瞬いた僕は。
何を思ったか、さりげなく差し出された手を反射的に取ってしまっていた。
(─────いいもの、見~ちゃった。)
そんな陸人君の大胆な行動に振り回されていたから。
僕は気付かなかったんだ。
このキスが。
更に僕と上原君の関係を…
追い詰める事になるだなんてことには。
ともだちにシェアしよう!