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side.Akihito
(クソッ……)
泣きながら走り去った保。
マキが邪魔してきても、構わず追い掛ければ良かったのに、出来なかった。
自分が余りに情けなくて…
あの後、保の携帯に掛けて見ても反応はなく。
いてもたってもいられず、保の住む団地まで行き。外からアイツの部屋を見上げてもみたんだが…
その窓に、明かりが灯ることはなかった。
一抹の望みを込めて押した呼鈴もノックにも、返事は無くて。何もかもが空回りの俺は、絶望感に駆られ暫くそこからから動けなかった。
家に帰ったところで眠れる訳がない。
それでも永い夜は明け、朝は勝手に訪れる。
じっとしてても悪い事ばっかが頭を支配し、落ち着かねえから。重たい身体を引き摺って無理矢理バイト先へと向かった。
…っても、仕事に集中出来るわけもなく、気分は散々。
体調不良を言い訳に早々とバイトを切り上げ、原チャで家に帰ってきたんだが───…
「……………」
ヘルメットを脱ぎ、無意識に漏れた溜め息。
大して働いてたわけでもねぇのに、身体は既に鉛みたく重い。
週末と言えば土曜はバイト行って、その足で保んちに泊まったりして…。
それが当たり前になってたのに。
慣れた日常が一度でも食い違うと、なんだか不自然に思えて。独りきりという今の状況が、妙に落ち着かなかった。
(保………)
たった1日会えねぇだけで、こんな腑抜けちまうもんなのか?
情けねぇと思いながらも、コレが今の俺自身。
アイツが傍にいねぇと、どうしょうもない人間なんだ。
「保……」
僅かにも声に出して吐き出せば、強まる欲望に。
俺は脱いだヘルメットを再度被り直す。
(今すぐ、会いてぇ…)
そうしねぇとダメな気がする。このまま擦れ違ったまんまで、ズルズルと引き摺っちまったら。
二度と戻れない、戻らない…そんな不安に煽られ、急いで原チャの鍵を取り出すと────…
「何処行くの?」
投げ掛けられた声に弾かれ、すぐさま振り返る。
頭では判ってた、その声は絶対にアイツのものじゃないんだって。
それでも今の俺は、期待せずにはいられなかったんだろう。けど…
「マキ……」
ソイツは今、最も会いたくねぇ奴だった。
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