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side.Akihito 「あれ~もしかして、誰かさんと勘違いしちゃった?」 振り返りざま、目が合った瞬間。 顔を顰めた俺にヤラシイ笑みを浮かべるマキ。 嫌味な言動に俺は舌打ちする。 「テメェ…何しに来やがった…」 なんでコイツが俺の家まで知ってんのかとか、どうでもいい話だが。 何か企んでそうなツラが正直気に入らねぇ…が、今は相手にしてる暇なんざ───── 「なんだ、また出掛けちゃうの~?」 つれないなあ~と、気色悪い猫なで声も無視し。俺はバイクへと跨がった。すると、 「いいのかなぁ~…キミのだぁい好きな彼、浮気しちゃってるよ~。」 「は…?」 エンジンを掛けようとした手を止め、マキを振り返る。 まんまと食い付いた俺に、マキは満足そうに目を細めると。俺に向かって何かを放り投げてきた。 ソレを片手で受け止める。 「……………」 「見てみなよ。面白いモノ、写ってるから。」 コイツの言葉を真に受けるのも、釈然としなかったが。百聞は一見に如かず、俺は黙ってマキが寄越したモノ……デジカメに手をかける。 電源を入れ、明るくなる画面。 指示通り操作すると、撮られた画像の一覧が写し出されて────… 「な………」 有り得ないに、俺は言葉を失った。 「ホラね…嘘じゃなかっただろう?」 笑いを堪えたよう告げるマキの台詞なんざ、今の俺には届いておらず… (どういう、ことだ…) 想像の域でしかなかった最悪の事態が、いよいよ鮮明になり…頭の中を黒い何かが支配し始める。 「キミの恋人クンもなかなかやるよねぇ~。あーんな大人しそうな顔してさ、やることヤッてんだもんねぇ?」 こんなコト、あるわけねぇ…。 きっとマキが仕組んだ罠だ。 そう納得しようとする反面で、保を疑ってる自分がいる。 「彼ならきっと家にいるよ?…なんなら今から会って確かめてみれば?」 バイクのエンジンを掛けた俺に、マキがそう進言して手を振る。俺はソレを無視し、さっさとアクセル全開にして発進させた。だから、 「きっともっと、面白いモノが見れるだろうからね。」 マキの台詞なんざ、全く耳に入ってなかった。 (保…保ッ……) メーターギリギリまで振り切って走る。 今ごちゃごちゃ考えても、何も解決しねぇから。 無心で保の家を目指した。 それでも拭えやしねぇ… アイツの泣き顔、デジカメに写し出された、 高月との───────キスシーンを。 (アレは、) 嘘だと思いたい。 マキが仕組んで高月にやらせたとか、きっとそうに違いない。 なのになんで、こんな落ち着かねぇんだよ…クソッ… そうこうする間に保のアパート前に到着。 ヘルメットを投げ捨て歩き出す。 「保……」 アイツの部屋、明かりが灯るそこを仰ぎ見て俺は。 ひと呼吸置いてから、鉛みたいな足をもたげ。 階段を一気に駆け上がった。

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