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side.Tamotsu
「大丈夫?シみない?」
「…平気ッス。」
あれから陸人君と一緒に、スーパーで買い物をし直して。
あんなコト…された後で、ちょっと気まずくもあったんだけど。僕のために怪我までしちゃった彼を、そのまま帰らせるわけにもいかなかったから。
送ってもらったお礼も含め、家へと招き入れた。
陸人君の怪我は、思ったより酷いものではなかった。
殴られた箇所も冷やせば幾分、腫れも引いたし…
僕はほっとして胸を撫で下ろす。
上原君…もそうだけど。喧嘩馴れしてる人って、
怪我とかに耐性があるのかもしれないな。
「…………」
「…………」
救急箱をパタンと締める音だけが、部屋の中に響く。
陸人君は無口な人だからか。
殆ど黙ったまんま、僕の顔をじっと見つめていた。
居たたまれず、僕も俯いて沈黙。
微妙な空気がお互いを包み込む。
「……良かったんスか?」
「えっ…?」
それを察してくれたんだろう。
暫くして陸人君の方から、静かに口を開いた。
「アイツに……言われてんじゃないスか?」
自分に関わってはいけない、と…。
アイツって言われて、真っ先に浮かんだのは…。
「……うん。でも、いいんだ。」
上原君は陸人君の事を敵視してるけど。
やっぱり僕は、彼を理由もなく避けたりなんて出来ない。
今日は危ないところを助けてもらったわけだし。
彼が悪い人じゃないって、はっきり解ったんだから…
「僕…ちゃんと話してみるよ。」
「保サン?」
きっと上原君は、陸人君の不良としてのイメージしか持ってないから。端から拒絶してしまってるんだと思う。
だから僕がちゃんと、誤解を解きさえすれば…
「解り合えると思うんだ。」
上原君も陸人君も。
そう真顔で切り出したら、陸人君はきょとんとした後、突然吹き出してしまった。
「はっ……あんたソレ本気?」
「ええ…!?今の笑うトコだった?」
僕は至って真剣に、話してたんだけどなぁ…。
珍しくも陸人君は口元に手を当て笑いを堪えている。
なんか分からないけど、彼のツボにハマったらしい。
「あ───…ごめ…アンタ、本物だな。」
腑に落ちなくて首を傾げると、漸く陸人君が落ち着きを取り戻す。
「なんとなく、アイツの気苦労が見えた気がする。」
「…それ、僕のことバカにしてるでしょ?」
「してないッスよ。」
さっきの発言は納得出来ないけど。
陸人君のおかげで少し気が楽になったみたいだ。
独りだったら、また色々考えてヘコんでただろうから…。
「そだ、夕御飯食べて行きなよ。」
「…いいんスか?」
今日のお礼だから遠慮しないでいいよと告げれば、
「なら、遠慮なく…」
陸人君はそう照れ臭そうに返し、笑った。と────
「あれ、誰か来たみたいだ…」
早速下拵えに取り掛かろうかと腕を捲った瞬間、
家の呼鈴が来客を告げて。
気が揺るんでた僕はさして考えもなく、ハーイと返事しながらドアを開け─────
思わず、固まってしまった。
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