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side.Tamotsu
「う、うえ、はら…く…」
いきなり過ぎて、どう反応すればいいのか判らない。
ゆっくりと見上げれば、
ツナギ姿の上原君が目の前にいて…
バチリと合った目は、何処か険しく揺れていた。
「保……」
立ち尽くしたままでいると、上原君が口を開く。
何だか声音までいつもと違い、冷たい感じがするのは…
気の所為では、ないみたいだ…。
「どう、したの急に…バイト、は…?」
やっと紡ぎ出せた台詞は、なんだか的外れなもので。
「いきなり、じゃ…都合悪かったのか?」
上原君は少し棘のある言い回しで以て、返してくる。
途端にゾクリと背筋が泡立った。
「う、ううん、そうじゃない、けどっ…」
なんだろ、怖い…。
昨日はあんな事になっちゃったし。
彼の電話もメールも、全て無視してしまったから。
怒らせてしまってもしょうがないだろう、けど…。
何故だかスゴく、嫌な予感がする────…
「…話、あんだ。上がっていいか?」
「え?あ、うんっ…」
反射的に返事してハッとする。
家には今、陸人君がいたんだった。
まだ誤解は何も解けてないし、上原君の様子もなんだか変だし…。
このまま鉢合わせるのは、マズイかもしれない。
「あっ…ま、待って!!」
「……んだよ?」
靴を脱ごうとした上原君を、思わず留めてしまった僕。
なんとか穏便に進めようとしたんだけど────…
「誰か……いんのか?」
その前に玄関に置かれた、明らかに僕のサイズではないスニーカーを認めてしまった上原君は。
あからさまに表情を、強張らせて…
「そのっ、これは────」
改めて説明を試みるものの。
上原君と目が合った瞬間、僕は言葉を失う。
それは今まで一度も向けられたことのないような、
酷く冷たい眼差し、だったから…
「保……お前今日、何処でなに…してた?」
険しい形相で詰め寄る上原君に、本能で後退る僕。
…が、すぐに壁に追い詰められ、肩をガシリと捕まえられた。乱暴に指が食い込み、堪らず顔を歪める。
それを見た瞬間、少しだけ力が緩められたけど…。
上原君の鋭い眼差しは変わることなく、僕を痛いほど突き刺さした。
「答えろよ、保…なんで黙ってんだよッ!」
無意識に身体が震え、答えようにも声にならなくって。
焦れたよう…いや、まるで追い詰められたかのよう捲し立てる上原君は。なんだかとても、辛そうな顔をしている。
それが自分の所為なんだって、
だったらちゃんと答えなきゃって解ってるのに。
なんて言ったらいいのか…
焦りと恐怖心で訳が判らず、口ごもっていると───
「保サン…?」
それはもう、最悪の展開でしかなかった。
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