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side.Akihito 弱ぇのはむしろ、俺の方─────だったんだ。 「ぐぁ…もっ、許し…」 「あ?テメェらが売ってきたんだろがよ…」 不安がるアイツを慰めたりしながら、 俺はいつも…本当は、自分自身に言い聞かせてた。 “保は俺に惚れている” …そう、頭ん中で反芻し平静を装って。 アイツを失う事に対し、一番ビクついてたのは、 俺の方だったんだから、な…。 「クソッ…」 命乞いとばかりに縋り付く野郎の顔を、平然と踏みにじる。 そう言えば俺は、元来人種だったんだなと。自嘲気味に鼻で笑い飛ばした。 保と一緒にいるだけで、まともでいられた。 けど、蓋を開けてみたら…こんなもん。 アイツに嫌われたくなくて、知らないフリを決め込むだなんて。どんだけカッコ付けてたんだっつうの。 血に塗れた己の拳。 生臭いソレに吐き気を覚える。 昔は何とも思わなかったってのに。 自分の余りの汚さに、心底嫌気がさした。 それでも、変わりたかった。 アイツに釣り合うような、 まっさらな男でありたかったのに。 やっぱ俺には、ムリなのかもな… 「チッ……」 売られたから買っただけ。 けど、これはただの八つ当たり。 もうムダな争いはしねぇと誓ったハズなのに。 ホント、根性ねぇんだわ。 ちゃんと保の口から聞きたかった。 例えキスの件が事実だとしても。 言い訳でもなんでもいいから、違うんだって否定して欲しかったってのに。 なのに、アイツは何も言っちゃくれなかった。 ただただ泣きそうな顔で黙りのまんま。 挙げ句俺は焦ってアイツを追い詰めちまって。 遂には怒らせ、逆ギレとかよ… 思い通りにならないのが、落ち着かない。 保は従順で、俺の事なら文句も言わず聞いてくれてたのに。 よりによって高月なんか庇いやがって…。 俺のことは、未だに名字でしか呼ばねぇクセに。 知ったばかりのアイツを名前で呼ぶとか…あり得ねぇだろがよ。 「保…」 情けねぇよな、男の嫉妬ってのはよ。 まさか自分が、こんな欲深い人間だったなんて思いもしなかった。 保と出会わなければ多分一生、わかんなかったかもしんねぇな…。 (保…) お前が俺を、ここまで変えたんだ。 きっかけは水島だったかもしんねぇけど。 こんなにも独占欲に駆られるのは、 お前にだけ……なんだよ。 闇に浮かぶ星に手を伸ばしてみても、 何も掴めやしない。 なんだかお前が、どっか遠くに消えちまったみてぇだ。 (どうすりゃ、いいんだよ…) 教えてくれよ、保。 俺独りじゃ…わかんねぇんだよ。 「…保、たも、つ……」 もう、限界だ。 お前のいない未来なんて、何も想像出来やしねぇ… 何度呼び掛けても、返事はない。 この手の届く場所に、お前はもういない。 独り歩く夜は、余りに寒すぎて。 寒くもないのに。 血に塗れた手の震えが、 馬鹿みてぇに止まんなくなっていた。

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