84 / 117
82
side.Tamotsu
(上原君…)
もう、戻れない…よね?
僕、ヒドイ事、言っちゃた。
上原君は怒ってたけど…それより何より、キミの瞳は不安だらけで揺れてたんだから。
なのに────…
(僕の、せいだ……)
不甲斐ないばかりに、ちゃんと応えられなかった。結果、キミを苦しめてしまった。
あんな哀しそうな上原君、初めて見たよ…
こうなってしまうのが怖くて、馬鹿みたいに独り不安がって。
焦って空回って自ら最悪の事態を招き、
為すすべ無く途方に暮れる。
僕はなんて、弱く愚かな人間なんだろうか。
(こんなんじゃ、嫌われて当然だっ…)
この1ヶ月が、奇跡でしかなかったんだ。
これが現実。僕なんて所詮、彼に愛される価値なんて無い人間だったんだよっ…
「ふ…ぇッ……!」
でも苦しいよ…キミとの幸せな日々を、僕は知ってしまったから。独りきりという、この瞬間が…苦しくて切なくて仕方ないよ。
ううん、キミはきっともっと辛い思いをしてるんだから…
コレは僕が受けるべき、当然の罰なんだろう。
屋上って、こんな寒かったっけ?
今まで独りでいた事なかったから、知らなかったよ。
キミと一緒だともう、キミの事しか考えられなかったからさ…。
(ダメだ、こんなの…)
諦めなきゃって思うのに、
過る記憶はキミと過ごした日々の事。
照れくさそうに笑うキミ
たまに意地悪なキミ
真剣に話す時の横顔
キスの時に盗み見た、
男らしくて大人っぽい眼差し────…
まるで生まれた時からある記憶みたいに。
振り返れば、キミしか思い付かなくなっちゃってた。
「も、やだぁ……」
弱く醜い心が、無意識に零れてく。
時の経つのも忘れ、一頻り泣き続けた僕は。
自分のことでいっぱいいっぱいすぎて…
扉1枚、隔てた向こう側の存在を。
知る事が…叶わなかったんだ。
ともだちにシェアしよう!