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side.Tamotsu
「だったら…上原君にかじりついてでも、取り返してきなさいよ。」
カッコ悪くたっていい、例え惨な目に合っても。
何もしないで諦めるぐらいなら、悪足掻きしてでも好きな気持ちを貫き通せばいい。
「ちゃんと言ってないんでしょう?きっと彼も、待ってると思うわよ?」
「上原君、が…?」
そう、かもしれない。
僕はいつだって大事なコトが言えないでいたから…。
あの時だってきっと。
僕がホントのことを話すのを、上原君は────…
「お母さんっ…」
「うん?」
いつも独りウジウジ考え、勝手に結論出して。
言わなきゃいけないことを、そのままにしてた。
それって恋人としてズルイ。
「僕、上原君に何も伝えないで…ケンカしたままなんてやだっ…」
上原君に嫌われちゃうからとか、釣り合わないだとか。常に自分の弱さを棚に上げてきたけど、全部間違ってた。ホントは…
「好きだから、ちゃんと…伝えたいんだ。」
僕という存在が出せる精一杯の想い。
それはいつだって、上原君にだけ捧ぐものだったから。
「そうね。ふふ…とうとう保も、恋する年頃になっちゃったのね~。」
よしよしと頭を撫でるお母さんは、嬉しいのと寂しいのとが半々と言った表情を浮かべてる。
たったひとりきりの家族だもんね…。
お母さん、否定も何も言わないけれど。
ホントのとこは複雑なんじゃないかって思う。
「お母さん、僕…」
真剣に、じっと見つめ合う。
「謝らないでいいから。保の好きなようにやんなさいよ。」
…僕の事なら何でもお見通しみたい。
お母さんはふわりと笑ってまた、僕の頭を撫でてくれたから。
「うんっ…!」
僕も迷いを捨て、力強く頷いてみせた。
うん、もう大丈夫、だ…
「保…?」
安心したら、僕の意識はくらりと揺れて。
(上原君…)
そのまま母の腕の中、安心しきった赤子のように。微睡みの中へ、ゆっくりと身を任せていた。
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