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side.Akihito
フラフラと、薄汚い路地裏から大通りへと歩を向ける。
そう言えば夏休みに─────…と。
見渡せば、アイツとの思い出を匂わせる風景が…そこかしこに広がっているのに気付いた。
会う度に緊張してる保、
嬉しいクセに困ったように笑う保…
俺のちょっとした行動にさえ、アイツは一喜一憂して。恥ずかしそうに、真っ赤になってたっけな…。
泣く事だってしばしば…。
付き合う以前は、ふとした瞬間、思い詰める節もあったが。それでもアイツは、俺のすぐ傍にいたんだ。
この目に見えて届く距離に、いつだってな…。
(なんでだ…)
守ってやるとか言って、独りカッコ付けてよ。
挙げ句自分で暴走して壊して、何やってんだ俺は…
アイツがあんな風に、俺に向かってキレるだなんて初めての事で。
内心ショックだった。
アイツらしくないっ、つうかよ…。
クソみてぇな生き方しか知らない俺には。
やっぱマトモな恋愛なんざ、端から許されねぇのか。
アイツの全てが、あまりにキレイ過ぎるから───…
(はッ…くだらねぇ────…)
もう、どうでもいい。
ごちゃごちゃ考えたところで。アイツがいないなら、もう…
帰り血に汚れた顔すら、気にも留めず。
大通りを行けば、自然と人の波が俺を避け過ぎていく。
どうせ俺は穢れた人間。
そう自暴自棄に宛もなく、彷徨い歩いていると…
「上原…上原じゃないか…!」
呼ばれてグイと、腕を引かれた。
普段なら反応出来たハズのそれが、大した力でもないのに足元がフラつく。
「…水島、か……?」
一瞬誰だか判らず、俺がぼんやりと声の主…水島を見下ろすと。
「上原サン、あんた怪我してんじゃないスか…!」
もうひとり、芝崎もいることに気付いた。
「何をしてるんだ、こんな所で…」
俺の現状を目に、水島が心配そうに眉を顰める。
…が、俺は答えず、素っ気なく腕を振り払った。
「お前には関係ねぇだろ…」
「上原、お前…」
言い捨てて去ろうとする俺に、水島は尚も食い下がる。
「何を言ってる、そんな顔をして…放っておける訳がないだろう。」
水島が心配してるのは解ってはいた。
だが…今の俺には、ただただ苛立たしい限りで。
「佐藤と…何かあったのか?」
「ッ…────関係ねぇッつってんだろ…!!」
敢えなく確信をつかれ、俺は思わず声を荒げる。
水島は弾かれたよう、ビクリと肩を竦ませたが。
俺を掴んだ手だけは決して、離そうとはしなかった。
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