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side.Akihito
「あるさ…お前も佐藤も、僕の親友だ。」
以前は他人に対し、内向的だった水島が。
真顔ではっきりとそう、断言して。
俺がわざと睨み付けてみても、
その意志は決して揺らぐことを知らない。
「だから何だってんだ。ほっとけよ…もう───」
自ら言い掛けた言葉を寸でで飲み込む。
口にしてしまったら、ソレが現実になっちまいそうな気がして…。俺は奥歯を噛み締め止まり、地に視線を落とした。
「そんな事は出来ない。お前だって…僕の傍に、ずっといてくれてたじゃないか…」
もうすっかり思い出となってしまった、水島への恋心。
そんなコトもあったっけか…と。
こんな風に懐かしめるのも、保に出会えばこそだ。
「知るかよ…お前に何が出来るってんだよ…」
これは俺と保の問題だ、
他人がどうこう出来るもんでもない。
それに…俺自身、どうしていいかなんて判らねぇのに。
「保は、もう…」
俺なんざ、要らねぇんだ。
だったらこのまま終わらせてやった方が、アイツも…
「……………」
「芝崎…?」
すっかり生気を失った俺を見上げ、言葉を失った水島。
重たい空気の中、ずっと黙 りで成り行きを見守っていた芝崎だったが────…
「ッ…!!」
「なっ!?…芝崎!!」
そんなピリついた場を、芝崎は躊躇なく…
己の拳で以て、ぶった切りやがった。
無防備だった俺の身体が、容易く地に倒される。
「ッ…にすんだ、テメェ……」
フラりと手をつき立ち上がったところで、今度は胸ぐらを掴まれて。啖呵を切れば、酷く冷めた目で俺を見下ろす芝崎が映る。
「やめないか、芝崎…!」
普段なら、水島の言葉に従順な芝崎も。
今は俺を掴んだまま、ピクリともしなかった。
「何って…?そりゃこっちのセリフっしょ?」
あんたこそ何してんスか?…と。
芝崎に冷たく返され、お互いジロリと睨み合う。
「詳しい事情は知んないけど。アンタがそんななんのって、佐藤サンしかないでしょーよ?…つうかさ、」
″らしくねーよ″
そう寂しげに告げられた、芝崎の言葉は。
まっすぐに、俺の心を抉ってきた。
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