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side.Akihito 「…あんたが、呼び出し食らったって知って。佐藤先輩、スッゲェ取り乱してさ。綾兎先輩も、自分が余計な事しちゃったからだって…責任感じて落ち込んでたんスよ?」 水島が会って話したいと思っても、俺も保も学校をサボっていたし。携帯に掛けてもメッセージを送っても、どっちも返事が無いままだったから…。 水島は更に自己嫌悪に消沈してしまい…。 見かねた芝崎が気分転換になればと、街へ繰り出したんだそうだ。 そこで、俺と出会(でくわ)したってわけか… 「すまなかった…だが、あの時お前に何かあったらと思って…」 「いや、俺の方こそ悪かったな…。心配掛けちまって…」 コイツが嘘吐ける性格じゃないってのは、解ってたんだ。それに、かなりのお節介やきだってのも…。 「芝崎。」 「…なんスか?オレ、謝らねーッスよ?」 悪びれた様子もなく言い放つ芝崎に向け、苦笑しながらゆっくり拳を突き出せば。応えるよう、コツンと同じそれで受け止めてくれる。 「いらねーよ。助かった…おかげで目ぇ冷めたわ。」 言ってニヤリと笑えば、芝崎は照れ臭そうにへへっと鼻先を掻いた。 「上原、帰るのか…?」 そのまま背を向けた俺を、未だ心配そうな水島が呼び止めたけど。 「ああ…もう少し、頭冷やしてくる。」 もう無茶な喧嘩はしねぇから、と断言すれば。 水島も漸く安心したように『またな』と返してくれた。 俺は振り返らず、手を振って歩き出す。 (アイツらに借り、作っちまったな…) 友情だの愛情だの、ホント舐めてたけど。 伊達じゃねぇなって…今なら信じられる。 (保……) だからって何かが解決したわけじゃない。 俺の知らないところで、今も保は。 独り泣いてるかもしれねぇんだ…。 (もう少しだけ…) 待っててくれるだろうか? 俺が覚悟を決める、時間を…。 こんな情けねぇまんまじゃ、お前の隣にいる資格も。あったもんじゃねえからさ…。 「保……」 音にして紡ぐ名前は、何よりいとおしくて。 「保…────」 ──────愛してる。 俺はその名に誓いを立てるように。 何度も何度も空に向かって、独り囁いた。

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