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side.Tamotsu
「行ってきます。」
「ん…頑張ってらっしゃい!」
お母さんにガッツポーズで見送られ、僕は家を後にする。
玄関を開けた瞬間、ひんやりと清々しい風が吹き抜けて。後押しされるがまま、僕はゆっくりと駆け出した。
お母さんに全てを打ち明けた後、僕は心身共に疲労困憊だったせいもあり、ぱたりと意識を失ってしまったみたいで…。
そのまま目覚める気配もなく、朝までぐっすりと熟睡しちゃったんだそうな。
正直まだ、挫けてしまいそうな自分がいるけれど…。大丈夫だって、何度も自分に言い聞かせる。
上原君、学校に来てるかな?
あんな事があったから休んでるかもしれない。
もしいなかったら、思いきって家に会いに行ってみよう。
今日こそは絶対に会うんだ。
会ってちゃんと話をするんだって、お母さんの前で誓ったから。
決心を奮い立たせるかのように。
僕はまだ人通りの少ない通学路を、颯爽と駆け抜けた。
「はぁ……」
学校が見えてきたところで、僕は漸く速度を落とし息を吐く。
走った所為というよりは、緊張からだろうか。
妙に弾む呼吸に、胸を押さえ落ち着かせた。
何度か深呼吸しながら、角を曲がると…
「………!!」
「おはよう、佐藤 保君。」
そこには、予想だにしなかった訪問者が…
僕を待ち構えていた。
「ま、き…くん…」
一気に不安が走り、胸がざわめき出す。
…けど、彼にだけは弱味を見せたくなかったから。
あくまで平静を装い、毅然と対峙した。
「ごめんね~、こんな朝早くから。どうしてもお話したくってさぁ…」
─────キミと。
…そう告げるマキ君は、甘ったるい口調とは裏腹に。友好的とは思えないような、胡散臭い笑顔を向けてくる。
「僕も、キミとは一度…話したいと思ってたんだ。」
本当はすぐにでも、上原君と話し合って仲直りしなきゃって、思ってたんだけど。どうやら先に、彼の事を解決させなきゃ…いけないみたいだ。
どのみち避けては通れないのなら。
これは寧ろ、いい機会なのかもしれない。
「ふふ…じゃ、行こっか?」
ここじゃあ…なんだし、と。
マキ君は不敵に笑って、学校とは逆方向へと僕を誘 う。
僕はごくりと喉を鳴らし、黙ってそれに従った。
辺りにはちらほらと、うちの生徒達も登校し始めていて。他校の制服姿だったマキ君は、ちょっとした注目の的となっていた。
そんな彼と対峙する僕にも勿論、好奇の視線が集まっていたけれど…。
構わず僕らは生徒らの波に逆らい、歩き出した。
待ってて、上原君─────…
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