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side.Akihito 久し振りに、夢を見た。 水島達と別れた後、暫く夜風にあたりながら家に戻った俺は、そのまま倒れるように眠りに落ちて… 夢の中、保が幸せそうに笑う。 俺の名を恥ずかしそうに呼んでは頬を染め、くしゃりと顔を綻ばせる。 たったそれだけ。 …そんな心地良い夢を、見たんだ。 自分で思ってる以上に、身も心もガタがきてたようで。 俺は一度も目覚めることなく、朝を迎え────… それは携帯の着信音により、現実へと引き戻された。 「もうこんな時間か…」 視界に入った時計は、ちょうど1限目が始まる前を指していて。俺はふらりと起き上がると、未だ鳴り続ける携帯を手に取る。 点灯するディスプレイには『水島』の表示。 昨日の今日で、まだ学校に来てなかったから… 心配して、わざわざかけてきたのかもしれない。 「水島?」 『…上原!!良かった、やっと繋がった…』 寝惚けた思考で電話に出れば、水島の安堵したような声が聞こえて。 …と思ったら、すぐに緊迫した様子へと早変わりする。 『今何処にいるんだ?』 「あ?まだうちにいっけど…」 問い掛ける水島の声音が、なんだか忙しなくて落ち着かない。その切羽詰まった様子が、更に俺の不安を煽った。 『とにかく…急いで学校へ来い!凄く、嫌な予感がするんだ…』 水島はかなり動揺しているのか… いつもの冷静さは微塵もなく、矢継ぎ早に捲し立てる。 「どうした?一体何があったんだよ…?」 浮かび上がる不安の種を押し殺し、あくまで冷静に問い返せば。水島は一呼吸おいてから答えた。 『さっき、いや…今朝の登校時間、僕は実際には見てないんだが…。他校の生徒とが、正門前で話してたらしいんだ。』 その生徒の特徴が『女子みたいに可愛い男子生徒』だったそうで。保絡みも相まって、ちょっとした騒ぎになっていたようで… 聞いてすぐ浮上したのはの存在。 アイツ、一体何を企んでやがんだ… 「それで、保は?」 『…それが、どうやらその生徒と一緒に何処かへ行ってしまったらしくて…』 しかも、騒ぎから暫くして2人の後を追うかのように。あのまでが、学校を飛び出して行ったという、目撃情報まであったもんだから…と。 聞いて俺は、居てもたってもいられず。 すぐさま立ち上がる。 「すぐ行くから。なんかあったら連絡してくれ。」 『わかった…けど、無理はするなよ?』 ああ、と返事して電話を切る。 ウダウダ考えてるヒマなんざねぇ。 俺は制服をひっ掴み、ポケットからバイクのキーを取り出すと…。 それを握り締め、急いで部屋を飛び出した。 (保ッ…!) 頼むから、無事でいてくれよ…。

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