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side.Tamotsu (大丈夫…) 無謀な行為だって、解ってたんだ。 僕みたいな非力な人間が独り、のこのことこんな人気の無い場所についてくだなんて。 マキ君に従い移動した先は… 学校の裏手に位置する、如何にもな雰囲気の廃工場で。建物内に入って行くと、嫌でも緊張と恐怖心が募る。 不安に駆られ竦む足を、なんとか擡げながら。 マキ君の後ろを、必死でついて来たのだけれど… 「…ッ………」 案の定、マキ君の伏兵に囲まれてしまい。 僕は足止めを食らってしまった。 やっぱり… 「さすが…あのの恋人だけあって、度胸だけは買うけどさぁ…」 くるりと振り返ったマキ君の笑みが、冷たく僕を嘲笑う。 「わかってて付いて来るとか、ただのバカじゃんね?」 目配せで合図が送られ。 さっき現れたガラの悪そうな少年達が、僕の腕を拘束する。 抵抗しようにも、少年達の数はざっとみて20人前後。見るからに、僕なんか太刀打ち出来る状況ではなかった。 「僕はただっ、キミと話がしたかっただけだ…」 あくまで強気に振る舞い、マキ君だけを真っ直ぐ捉える。 声は少し震えてしまったけど…それでも気持ちだけは、負けないように。胸を張り堂々と身構えた。 「話、ねぇ…。ボクには無いけど?」 校門前で見せた態度を一変させ、残忍な笑みを湛えるマキ君は。 僕を見ているようで、見てはいない。 彼のその怒れる感情は。 一体に、向けているんだろうか…。 「ホント、不思議だよねぇ。お前みたいなのが、何でアイツに気に入られてんのかさ…」 ゆっくりと近付いてきたマキ君が、不愉快そうに僕の顎を指で持ち上げる。 僕とは殆ど面識も無いハズなのに。 まるで、ずっと前から僕の事を知ってて。 長いこと憎み続けてきたかのような…そんな態度で見下ろしてくる、マキ君。 容赦なく突き刺さる冷ややかな視線に。 僕は堪らず背筋が泡立った。 「しかもまで手懐けちゃってさぁ…。あ、もしかしてアイツもお持ち帰りして~ヤッちゃったとか?」 「なっ…!そんなこと、しないッ…」 キッと睨み付けると、 「コワイ~」とワザとらしく(しな)を作るマキ君。 「ふ~ん。そのわりには仲良すぎじゃん?カレシほったらかしでさぁ…。」 までしちゃって─────? そう、勝ち誇ったよう吐き捨てるマキ君に。 やっぱり彼は、にいたのだと…確信させられる。 歯痒くも僕は、ただ黙って奥歯を噛み締めるしかなかった。

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