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side.Tamotsu 「上原のヤツ、相当怒ってたでしょ?まさかもう別れたとか…言わないよねぇ?」 「なッ…別れてなんか……!」 堪らず叫んだ僕に、一瞬驚いた表情を見せたマキ君だったが… すぐに意地悪な目付きに戻し、お返しとばかりに顎へと爪を食い込ませてきた。 「なぁ~んだ、まだ別れてないんだ…」 つまんないの~とか。 どうして彼に、そこまで言われなきゃいけないんだろう。 「キミは、何がしたいの…?」 約半年前、上原君を誘ったのは彼の方だった。 当時、綾ちゃんの事で悩んでた上原君が、たまたまのタイミングで現れた彼を利用してしまって。 男であるマキ君を、試しに抱いてみようとしたのだけれど… 愛のない男相手では、その行為が無理だと悟り。 上原君は彼に一切手を出さずして、そのままホテルに置き去りにしてしまったんだって…僕は聞かされていた。 「上原君を、恨んでるの?」 「はぁ?何を今更…そうだよ、ボクはアイツが許せないね。」 今まで自分に靡かなかった男なんていなかった。 ちょっと誘惑すれば、誰もが自分の虜になってたし。 それが当たり前だったんだ、なのに────… 「アイツはボクに言ったんだよ…ってさ。それが何?今じゃで、お前みたいなショボいのとさ!普通にキスまでしちゃって…恋人同士とかさ、」 ″虫酸が走る─────…″ そう言い放たれた瞬間、彼に思い切り頬を殴られた。弾みで爪が引っ掛かり、鈍い痛みの上を生温かい感触が伝う。 「あり得ないじゃん、そんなことッ…このボクがダメで、お前がイイなんてさ!」 ここに来た当初は、不安でいっぱいだったのに。 なんでだろう?こんな状況にきて、さっきまでの震えが、嘘みたくピタリと止まってしまった。 圧倒的に不利な戦況。 マキ君からは依然として射殺されそうなくらい、睨み続けられてるっていうのに。 僕の心中は意外にも、冷静さを取り戻していた。 「キミは、さ…」 彼の想いは、かなり歪んでしまったけれど。 なんとなく…解ってしまうのは、 「上原君が、好き…なんだね…」 どんな形であれ、 同じ人に向けられた感情(モノ)…だったから。 「は…?なに、言ってんの…お前……」 認めたくないのか、否定とばかりに今度は反対の頬を打たれる。 「んなワケないだろっ!ボクはただ、アイツを苦しめたいだけなんだよ…!」 だからアイツが一番大事なモノを、壊してやるんだと。 「だからさ、別れるって言ってよ…」 「え…?」 「今すぐ上原と別れますってさ。そしたら許してあげるから…」 なんとも独り善がりな要求に僕は、暫し言葉を失う。 黙っていると、抵抗と診なされ答えを急かされて。 だから僕は、はっきりとした口調で彼を見据え。 こう答えてみせたんだ。

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