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side.Tamotsu
「よぉ……陸人?」
真っ直ぐに僕を目指す陸人君の足取りを、和博君が遮るよう立ちはだかる。
「お前も来ると思ってたぜ…だって、」
“このチビ、お前のお気に入りだもんなぁ”…と。
和博君は陸人君をからかうよう一笑し。僕の顎を、指で乱暴に掬い上げた。
そんな従兄弟の挑発的な態度に、陸人君は眉間を険しくさせる。
「お前も上原の野郎も、何が良くてこんなチビに惚れちまってんのかねぇ…」
俺のマキの方が、顔も身体の具合も全て勝ってるってのに───…そう、和博君は誇らしげに語り始める。
陸人君は黙ったまんま、その場で彼を睨み続けていたけど。
それは単純に怒ってるとかではなくて。
同情してるとか、身内を哀れむかのような…
そんな心の葛藤みたいなものを、瞳の奥に宿していた。
「とりあえず上原潰すには、コイツやんのが一番だしよぉ…。なんなら、お前に犯らせてやろうか?」
“お前なら、このチビに勃起 つんだろう?”
そう嘲笑った従兄弟に対し、陸人君は…
「和博…!!」
ここへ来て漸く、怒りを露にした。
「いい加減にしろ…!」
低い咆哮と共に一気に詰め寄り、風の如く拳を放った陸人君。
まさか彼が自分に殴りかかってくるとは、思いも寄らなかったのか。和博君は反応する術もなく頬に一撃を食らい、あっさりと吹き飛ばされてしまった。
勢い良く地面に倒れた和博ではあったけれど…。
そこは臨機応変に、すぐさま起き上がる。
不意討ちを食らったその表情は、なんとも憎々しげに歪められて。怒りに満ちたその眼光は、真っ直ぐと陸人君に注がれた。
「テメェ…」
「来いよ和博。本気で潰してやっから…」
「ああ?上等じゃねーか…!!」
今まで和博君相手に、本気など出した事はなく。
従兄弟である彼に、ずっと手加減してきたんだと告げる陸人君。
その挑発に、まんまと乗せられた和博君は。
悔しそうに唾を吐き捨て立ち上がった。
そのまま拳を構え、力強く地面を蹴ったのだけど──…
「待ちなよ、陸人。」
まさに一触即発なふたりを、マキ君の一声が容赦無く遮った。
「ッ……!!」
ヒヤリとして、僕は息を飲む。
「マキ…!!」
「おっと、動くと危ないよぉ~?」
こちらを振り返った陸人君が驚愕し、目を見開く。すぐさま駆け寄ろうと踏み出すその足を、マキ君は阻んだ。
その手には、ギラリと鈍い光を湛える…小さなナイフ。
「…ッ……」
「保サン…!!」
鋭い刃先は、僕の喉元ギリギリの位置へと向けられていた。
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