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side.Tamotsu
「惜しかったねぇ…キミの本命の王子様じゃあ、なかったけど。」
クスクスと僕を見下ろすマキ君。
そう言って彼が目配せすると、少年達は陸人君を取り囲んだ。
「お前もさ、なぁに頑張っちゃってんだろね。」
恋人がいる相手を好きになり。期待されず、報われもしないのに。独りこんな所まで追い掛けてきて。
「ホント、ムカツクよ…」
お前もお前も。
マキ君は憎しみを込め、僕と陸人君を交互に見やる。
「まぁ、そこで見てればいいよ。今からお前のだ~い好きな佐藤君が、ボロッボロになるとこをさぁ…」
「…ぁ…ッ……」
言ってマキ君は、刃先を少し僕の頬に押し当てる。…と、すぐにチクリとした痛みが走り、血が滲み出た。
それを目の当たりにした陸人君が、一瞬顔を強張らせたけど…
「マキ…」
ひどく冷めた声音で呼び、「なに?」と応えたマキ君を睨み付けると。
「お前、」
“カワイソウなヤツだな────”
そう発した陸人君は、既に怒りを通り越し。
軽蔑の眼差しをマキ君へと、注いでいた。
「ッ…和博ッ…!!」
途端に顔をひきつらせ憤怒するマキ君は。
弾かれたよう声を荒げ、「やれ」と合図を送る。
「…だそうだ。悪ィな、陸人。」
マキ君を溺愛する従順な下僕と化した和博君は、躊躇うことも無く─────…
「ッ……!」
「りっ…陸人君────…!!!」
取り巻きの少年が持っていた鉄パイプを奪い取り、
陸人君の目前まで近付くと…
それを勢い良く、陸人君の頭上へと振り下ろした。
瞬間、ガツンと鈍い打撃音と…僕の悲鳴とが、建物内にこだまする。
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