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side.Tamotsu
「陸人君…陸人君っ…!!」
「うるさいよ、お前…」
力無く崩れ落ちる陸人君に、堪らず叫んで拘束から足掻こうとするも。目障りだと言わんばかりに、マキ君の平手が飛び、阻止される。
「…ッ……」
「ぁ…陸人君ッ…!」
僕の呼び掛けに応えるみたく、ゆっくりこちらを向こうとした陸人君だったけれど。無防備に与えられた衝撃は、余りに酷く…また脱力して地に伏してしまう。
頭からは血が滲み始めて。埃っぽいコンクリートの上を、じわりと赤く染めていった。
「陸人君、陸人君っ…!」
マキ君に殴られようが構わず、陸人君を呼び続けるけど。彼が起き上がる気配は無く…。
微動だにしないその痛々しい姿が、僕の揺るぎなかった心を…容赦なく追い詰めていく。
「なに泣いてんのさ。お前の所為で、ああなったんでしょ?」
冷静に考えれば、違うって言えるのに。
まるで僕が犯した罪のよう追い詰め、苛まれる。
だって陸人君はきっと、僕を助けるために来てくれたんだから。こんな僕なんかの、ためにっ…
「だからさぁ…そろそろ観念したらどうなの?」
ここにきて形勢逆転。
漸く弱味を見せ始めた僕に対し、満足げに笑うマキ君。
項垂れ涙する僕は抵抗する気力を失い、黙って奥歯を噛み締める。
「ほらほら、ゴメンナサイって…上原とは別れますってさ。早いとこ言っちゃいなよ~。」
マキ君は促すよう、手の中のナイフを玩ぶ。
「や、だ…」
こんなことに、何の意味があるんだろう?
彼が思う通りに事が運んだとして、本当にそれでマキ君は満足出来るって言えるんだろうか?
やっぱり、こんなの…
「まぁだ抵抗しちゃうんだ…?」
吐き捨てるよう、マキ君が命令を下すと。
傍観していた少年達が、再度動き出す。
「ぁッ…!」
腕の拘束は更にきつく強められ、ギチリと鈍い痛みを生む。
露になった上半身にはベタベタと手が這い回って…。嫌悪感に思わず身を強張らせた。
彼らは無遠慮に、制服のズボンのベルトにまで手を掛けてきたけど…。
それだけはと力いっぱい暴れ、なんとか凌いでみせはするものの。全てを暴かれるのはもう、時間の問題だった。
それでも────
「なにムキになってんの?大人しく言うこと聞けば、痛い目見なくて済むってのにさ?」
弱いクセに─────…確かに、その通りだと思う。
「お前を助けに来た陸人も、あんな状況でさ。それとも…まぁだアイツが来てくれるだなんて、思ってるとか?そんなこと、まずあり得ないのにねぇ?」
あんなに強かった陸人君でさえ、倒されてしまったんだから。
僕みたいに喧嘩すらしたことない、ひ弱な人間が。この人数相手にどうこう出来るだなんて、端から思ってなんかいない。
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