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side.Tamotsu
「泣くなよ…」
僕のことなんて気にしてる場合じゃないのに。
なのに上原君は、そう言って僕へと笑いかけてくれる。
僕さえいなければ、例えこの人数相手だって、
きっとなんとかしてみせるだろうに。
なのに…
「こんなのは、大したことじゃねぇんだよ。」
お前を失うんじゃないかって、そんなことを毎日想像して。絶望して気が狂いそうになってた。
その時の痛みに比べたら…なんだって平気だって。
「ダメだよっ…そんなの…」
目の前で傷付けられていく、大切な人。
「僕だって、自分の所為で上原君が傷付くなんてヤなんだよっ…!」
だから、こんな無茶しないでよ?
僕だってキミのためなら、このくらい耐えてみせるんだから…
「バーカ。俺よかカッコイイこと言うなよ…」
泣きながらも僕が告げれば。
キミはこんな状況だっていうのに。
嬉しそうに目を細め、笑ってみせるんだ。
「……れ…だまれ、だまれ!!」
凶器を突き付けられても、怯まずにいる僕に対し。マキ君は、どんどん余裕を無くし追い詰められていくかのようで。
けたたましく発狂しては、僕の頬に平手打ちを食らわせる。
拳でもナイフでもなく、あくまで平手打ちなのは。彼がまだ、底まで堕ちきってはいないから…なのだろうか?
「なんで、こんなヤツに…体張ってまで助ける価値があんだよ…?」
意味が解らない────…
男は抱けないと、自分を拒んだクセに…。
その上原君が僕みたいな、顔も中身も平凡な男をあっさり選んでしまったことが…彼にはどうしても受け入れられないんだろう。
確かに、マキ君はその辺の女の子より断然可愛いから。男の子にもモテモテで、フラれた経験なんて一度も無かったのかもしれない。けど…
「こんな…なんの取り柄もない、普通のヤツが、なんで…」
「普通じゃねぇさ。」
僕はやっぱり、上原君の隣りに並ぶには相応しくないだろうし。自信も何も、未だにないけれど…。
けどね…マキ君のそのやり方じゃあ、想いはちゃんと伝わらないだろうし。
振り向いてはもらえないと…思うんだ。
「は?バカじゃないの?どう見たってフツーじゃ…」
「少なくとも俺が命 張って、本気で守りてぇって思えるぐらい。コイツはテメェなんかより、よっぽど魅力があるんだよ。」
「上原君…」
そんな風に言ってくれるのは、きっとキミだけだろうけど。
他の誰かじゃない、キミの言葉だからこそ。
僕は充分に、幸せ者だって思えるよ…。
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