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side.Tamotsu 「お前こそ、何で俺なんかに執着してんだよ。」 こんな茶番に付き合うような従順な取り巻きなら、ごまんといるだろうに。 そう言って、和博君達を一瞥する上原君は。 もしかしたら、気付いてないんじゃないのかな? マキ君のに… 僕の事とか他人に対しては、すっごく目敏いのに。自分の魅力に至っては、てんで無頓着っていうか。 全く自覚がないんだもんなぁ…上原君は。 「要は、お前を弄んだ俺が気に食わねぇんだろ?だったら直接、俺をやればいいだろうがよ?」 「ッ…それじゃ意味無いんだよ…!」 上原君と対峙するマキ君が、僕を忌々しげに見下す。 「ボクはお前が苦しむ姿が、見たいんだからっ…」 ただ単純に傷付けたんじゃあ意味がない。 自分が受けた屈辱は、こんなもんじゃないんだから… 言いながらマキ君の表情から、見る間に余裕が無くなっていく。そんな彼に上原君は、大袈裟にも溜め息を吐き… 「ほんと、ガキだな…」 冷めた表情で、独り言のように一蹴するも。 次の瞬間には、眉間を険しくさせギリッと拳を握り締めて。 「なら、遊びはそろそろ…終わりにしようぜ。」 「ぐあッ…!!」 上原君の台詞とほぼ同時に。僕を拘束していた少年2人が呻き声を上げ、崩れ落ちていき。 ずっと抵抗して踏ん張っていた僕は、その想定外な反動によって、一緒に倒れそうになったけれど… 「諦めろ、マキ。お前じゃどう足掻いたって…保サンには敵わねーよ。」 「りく、と…!」 寸でのところで、ガシッと身体を抱き留められる。 振り返ると…そこには和博君に殴られ、倒されていたはずの陸人の姿。頭からは上原君と同じように、痛々しくも血を流していた。 「陸人君っ…!ごめ、ごめんねっ…」 「大丈夫だから、泣かないで。」 傷付いた身体でありながら、難なく僕を支える陸人君。 その変わり果てた姿を目に、堪らず涙する僕を。陸人君は、優しくあやすよう背中を擦り…微笑んでくれた。 「ボクが勝てないって…どういう意味だよ、陸人…」 「俺も…保サンのためなら、(タマ)張れるってことだ。」 躊躇なく宣言する陸人君に、絶句するマキ君。 そのやり取りを目に、上原君は悪戯に笑みを溢す。 「高月、今だけお前に保を預けてやるよ。」 「…アンタに言われなくても、守るさ。」 「へッ…上等だ。」 あんなに仲が悪かったはずなのに。 この場にきて、なんだか昔からの友達みたいな雰囲気で会話する…上原君と陸人君。 その夢みたいな光景に、思わずふたりを見返した。 そんな僕を置いてきぼりに、上原君は一度こちらへと視線を送ると… 「保連れて、外出てろ…」 ここは俺が1人で片付けるから、と。 そう告げてから脱いだ制服の上着を、僕へと投げて寄越す。 見上げれば…傷付いた顔で不敵に笑う、上原君の目とぶつかった。 僕は視線だけで咄嗟に、訴えてはみたけれど… 思いは叶わず…すぐに背を向けられてしまう。 「まっ、て…」 「行こう、保サン。」 上原君の言葉に納得出来ず、留まろうとする僕を。陸人君は大丈夫だからと告げ、首を振る。 まるで陸人君には、上原君の意図が全て理解出来てるみたいで…。 こんな非常時だったけれど。 ちょっとだけそれが、羨ましく…ズルいなとも思った。

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