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side.Tamotsu
「上原君…!」
「保、危ねーから…な?」
「でもっ…」
それでも…怪我してる上原君ひとりを置いて行くには、憚られて。
ギリギリまで必死に抵抗してみせるのだけど…
「こっからは…マジで暴れっから、よ…」
ユラリと少年達に歩み出る上原君の背中からは、今までにない気迫のようなものを感じて。
余計に怖くなり、駄々を捏ねるみたく泣いて懇願したら…上原君はちょっと困ったように眉根を下げた、けど…
「いーか保?俺はお前の、最強の恋人なんだからよ───」
信じろって、キミが自信たっぷりに笑ってみせるから。
「…わかった、よ。」
待ってるから。
僕も覚悟を決め、泣きながら笑顔で返したんだ。
「保サン。」
「うん…。」
陸人君に呼ばれ、名残惜しくも…ゆっくりと踵を返す。
去り際、上原君達の遣り取りが…
やけに静かな工場内に響き、耳に届けられた。
「じゃあ…始めよーぜ?」
「はッ…んなボロボロのくせに、カッコつけてんじゃねーよ!」
一度だけ、こっそり振り返ると、愛しい人の背中。
「お前ら…俺の大事な恋人 に、手ぇ出したんだ…」
″覚悟は出来てんだろうな?″
ここからでは判らない彼の表情を見て、少年達が次々に後退る。
「俺を本気で怒らせたんだ…タダで済むと思うなよ…」
金色の鬣 が揺れ、
握る拳がぎちりと歪な音をたて。
「…お前にだけは、見せらんねぇな…」
箍 が外れた獅子の、
この醜い本性だけは────絶対に。
最後に放たれたその台詞は、僕には聞こえなかった。
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