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side.Tamotsu
「うえ────」
声に弾かれ…すぐに立ち上がり、
大好きな名を、呼ぼうとしたのだけど。
振り返ったらもう、僕はその腕の中に抱かれていて。
瞬間、堪えていたものがボロボロと、
涙となって溢れだしてしまい…
紡ごうとしたそれは、言葉にならなかった。
「たく、無茶しやがって…」
「うえはら、くっ…」
身体は傷だらけ、本当はあちこち痛くて仕方ないのだけど…。
今はそんなこと、全然気にならなくて。
強く抱き締められるほどに、愛しさで満ち溢れていくから。
僕も負けじと背に腕を回し、無我夢中で彼の胸へと擦り寄った。
ああ…本当に上原君、なんだ…。
「ごめ、ねっ…」
一頻り抱擁を交わしたところで、僕は改めて謝罪を口にする。
平然としているけれど…上原君は僕なんて比べものにならないくらい、傷付いてるはずだ。
今だって大人数を相手にして、さっきより怪我が酷くなってるみたいだし…。
冷静に考えてみれば、こうして普通に目の前にいるのだって、奇跡なんじゃないだろうか?
「怪我、はっ…?」
探り探り、震える手で上原君の腕に触れれば。
「ばぁか、大したことねぇって言ったろ?」
くしゃりと笑い返し、頭を撫でてくる。
そしたらゆっくり顔が近付いてきて、
「でもっ…────」
不安そうな僕に、優しくキスを与えてくれた。
更には…
「んっ…」
「なぁ、保…」
不意打ちのキスに惚ける僕を、真顔でじっと見つめてきた上原君は。
「結婚しようぜ。」
反則的なタイミングでのプロポーズを、投げて寄越し…
その綺麗な笑顔で以て、僕の心を惑わすんだ。
「え……えっ…?」
あまりに唐突過ぎて、僕は反応に困ってしまうけど。
「卒業したら、さ…。一緒に暮らそう、な?」
約束だぞって、いつかみたいに小指を差し出されて。
僕はその指と上原君とを、交互にみやり。
徐々にその言葉が、現実味を帯びてきて────…
「う、ん…うんっ…!」
幸せにうちひしがれ。
嬉し涙に何度も何度も、頷いてみせた。
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