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side.Tamotsu
「は…テメェなんざ早々にくたばってたクセに。役立たずのまま、潰れて終いかと思ってたぜ?」
「ちょ…上原く……」
「ふん…誰かさんがモタモタしてたおかげで、保サンも俺も、とんだとばっちりだったけどな。」
「ああっ…陸人君までっ…」
僕がオロオロしてる隙に、更に険悪化するふたり。なんならこの場でケリつけるかとまで言い出したもんだから、大変だ。
そこはなんとか間に割って入り。必死になって説得すれば、睨み合いながらも喧嘩はやめてくれたけど…。
どうしてこうなっちゃうのかなぁ?
さっきまでは、あんなに息ピッタリで仲良くしてたのに。
「とにかく、陸人君も怪我してるし…。手当てするから、僕の家においでよ?」
陸人君は今回の件に関して、最初こそマキ君の仲間という立場で、僕に近付いてたみたいだけど…。
直接的には無関係なわけで…寧ろ被害者だと思うし。怪我だって僕を助けに来てくれた所為だから手当てだけでもと、申し出たのだけど…
「いいんスよ、保サン。」
彼は首を縦には降らず、そう笑って答えた。
僕は尚も食い下がったが…やはり陸人君は頑なに譲らず、困ったように息を吐いて。
「俺、アンタにフラれたんスよ?」
それはもう、目の前で盛大に。
言われて僕はハッとする。
そ、そっか…思えば僕、陸人君に告白とかキス…とかされてたんだっけと。
意識したら、なんだか居たたまれなくなり。
僕は何と応えていいかも判らず、言葉を濁した。
ちらりと上原君を見上げたら、
「たく…やっと自覚したかよ。」と呆れられるし…。
う~…だって、そういうの全く免疫ないし。
まさか陸人君みたいなコが、男の僕なんか…って、普通は思わないでしょ?
「さすがにあんな、見せつけられるとね…」
野暮な真似は出来ないよ、と告げる陸人君に僕は、
「ご、ゴメンナサイ…」
ただただ項垂れるしかなかった。
「まあ、アンタとはマジで勝負したかったけどな。」
「んだよ、やっぱやんのか?」
挑発的に言い合うふたりにはもう、以前のような刺々しさは感じられず。
「いや…やめとくわ。」
“俺もアンタには敵いそうにないから”
最後にそう言い残し、陸人君はくるりと背中を向けた。
「陸人君…ありがとう!」
「チッ…カッコつけやがって…」
似た者同士、だからかな?
会えば喧嘩だった上原君と陸人君。
お互い、相変わらず好戦的な態度ではあるけれど…。
きっとこれからは、前みたいな事にはならないような気がするよ。
(本当に、ありがとう…)
背を向けたまま手を振る彼を見送り、
僕らをもその場を後にする。
さっきまでの喧騒がまるで嘘みたいに。
ふと見上げた空は、何処までも青く透き通り…
僕らの遥か頭上に清々しくも広がっていた。
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