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第4話 下世話な話
丁度その時、壱太が手を上げてこっちに歩いてきた。相変わらず、あちこちのテーブルの奴らにキラキラした笑顔を振りまいて愛想の良い奴だ。あ、何か手渡されてるし。
俺は蓮に軽い気持ちで男もいけるのって言った事で、蓮がちょっと微妙な感じの空気になったのを感じてた。別に男だから、女だからって今どき関係ないのに。実際俺も男とは経験済みだっての。
「何なに?なに話してたのさ。蓮が珍しく険しい顔してるから。」
俺は蓮に気楽な気持ちになって欲しくて、さっきの話を繰り返した。節操なし男ならもっと良いアドバイスを蓮にくれるだろう。
「いや、蓮がこの前、後輩ちゃんに告られて、思い出をあげた話してただけ。何かこいつ、機嫌悪くなっちゃうからさ。」
壱太は俺と蓮を交互に見ると頷いて言った。
「あー、そう言うこと。蓮があいつ、健に告られたのは驚かなかったけど、ヤルとは俺も意外だったんだけど。なんか俺みたいじゃん?蓮は、好きな相手としかそっちはしないと思ってたからさ。どんな風のふき回し?」
壱太がニヤニヤしながら蓮に尋ねると、蓮は不機嫌な顔で口に指をクロスしてノーコメントと言うと、壱太は肩をすくめて言った。
「ふーん、まぁ良いけど。それよかさ、涼介は特進狙ってんだって?お前、何目指してんだよ。噂になってるぞ。涼介は生徒会狙ってるって。実際どうなんだよ。」
俺は情報の早い壱太に辟易しながら、チラッとニヤついた顔を見つめると甘いドリンクをぐいっと飲んで言った。
「あー、それマジだから。ライバルは端から潰すつもり。俺、高等部の生徒会長やるつもりだから、お前たちも協力してくれよ。まぁ、その前に特進に入らないと話にならないから俺様も必死よ。」
壱太はニヤっとしながら言った。
「ああ、それで最近遊ぶのやめたんだ。麗美ちゃん愚痴ってたぞ?」
俺は何て答えて良いか分からなくて、頷いた。こんな時ばかり鋭い壱太が俺をじっと見つめて言った。
「それだけが理由じゃないな?…ま、いいや。高校入ったら一緒に遊ぼうぜ。蓮も付き合えよ?涼介の偉大なる野望のために、俺たち全面的に協力しないといけないだろ?
清き一票を入れてくれるファン達を増やしてさ。あー何か俺って参謀向きじゃねぇ?やばい、楽しそう~。」
いつでも前向きな男だなこいつは。そう呆れて笑う俺を、蓮が盗み見てた事には気づかなかった。
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