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第10話 夜の街

「はぁっ、はぁ…、ふぅ。」 俺が息も絶え絶えにうつ伏せてぐったりしている、その隣ではやっぱりぐったりとした鷺沼が身を投げ出していた。 「…お前、精力有りすぎだろ。」 俺が腰の怠さを感じながら呟くと、鷺沼は俺の方に顔を向けて笑った。 「三好を満足させるには、俺ぐらい有り余ってないとな。三好だって、絶倫相手じゃなきゃ満足しないんじゃないのか?」 俺はほくそ笑んで大きく伸びをすると、ゆっくり起き上がった。 「そうかもな。…俺、明日の朝早いんだ。用意してそろそろ帰らなきゃ。鷺沼は出れそう?」 鷺沼は起き上がると俺の唇に軽くキスして、シャワーを浴びに浴室に消えて行った。何だ?あいつ。恋人みたいなことして。あんな事されると、調子狂うな。 俺は肩をすくめて歯磨きをすると、鷺沼と交代でシャワーをサッと浴びてホテルを出た。大通りでタクシーを捕まえると、見送ってくれた鷺沼に、また連絡するとひと言言って車に乗り込んだ。 気怠い身体とは反対に、頭はスッキリとして、今なら何でも出来そうだ。俺はイヤホンを耳に差し込むと、英語のヒアリングを聴きながらまだ早い夜の街を行き交う人々の姿を見るともなしに見ていた。 ふと、通り過ぎた歩道を見知った顔が歩いていた。あれって、蓮じゃなかったか。俺はもう見えないと知りながらも、ガラスに額を押しつけて蓮らしき姿を目で追った。 誰かと一緒に歩いてた。そっかあいつ付き合ってる奴が居るんだな。それか俺みたいにセフレか。蓮が寝るのはどんな奴なんだろ。俺たちみたいに節操が無いわけじゃないし。 でもこの手の話は、あいつノーコメントだから本当の事は分からないんだけどな。壱太より遊んでたら笑える。 俺は蓮が男を抱くとしたらどう抱くだろうと不意に思い浮かべたけれど、何だかそんな事を考えちゃいけない気がして肩をすくめると、スマホを取り出してSNSのチェックを始めた。 すっかりその事を忘れていた俺は、数日後壱太が高校にタクシーで乗り付けて来たのを皆で笑った際に不意に思い出した。俺はニヤつきながら、蓮の側に行って耳元で話しかけた。 「…なぁ、先週末夜8時ごろ、お前マルセクビルの近くの歩道、誰かと歩いてただろ?あれって誰だった?」

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