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第14話 鷺沼との清算

篤哉が理玖に約束を迫ったあの日、俺は篤哉に頼まれて一緒に中学部正門に立っていた。正門手前には、花屋が花束を用意して待っていた。篤哉はそつがないな。 それから篤哉から花束を受け取った理玖の、喜びと困惑と戸惑いが交差するいろんな表情を見ながら、俺は篤哉に理玖を家まで送ってくれと頼むと、花束を預かった。 俺は野次馬のガキンチョたちから逃れると、理玖の代わりにうちの車に乗って家に戻った。車の中は篤哉の用意した真っ白な薔薇が匂ってむせかえる様だった。 俺は花束を横に置いて、鷺沼に話があるから夜に会おうってメッセージを送った。既読と了解の返事を眺めながら、今夜はちょっと気が重い事になりそうだとため息をついた。 家に戻ってから、着替えて待ち合わせ場所のカフェへ向かいながら、俺は何て切り出そうか考えていた。最近俺は、広く浅くのセフレを学校内だと面倒だから、大学生相手に触手を伸ばしている。 会う回数は減ってはいたけれど、それでも月に2~3回は会っていた鷺沼に先月聞かれたんだ。 『三好は誰とも約束しないのか?俺はそろそろ約束相手が欲しい。俺はお前がタイプだし、身体の相性もいいし、お前と約束したいけど、…ダメか?一回考えてくれるか?』 俺はなんと答えて良いかがわからなくて、何も言えなかった。今日はその返事をしようと待ち合わせたんだ。鷺沼はいつもの調子でやってくると、困った顔で俺を見つめて言った。 「俺、振られるみたいだな。取り敢えず、場所変えようか。」 そう言うと、初めて俺の前に立って歩き出した。近くの公園はもう夜なのに、まだひと気が結構あった。気まずい気持ちの俺に、鷺沼はいつも通りの態度で言った。 「お前の気持ち、教えてくれよ。」 俺はまだ特定の誰かと約束したいわけじゃ無かった。だから正直に言ったんだ。 「鷺沼は体の相性はバッチリだし、うるさい事言われなくて、色々都合がよかったんだ。でも約束とかって、誰ともまだそんな気になれないんだ。ごめんなさい。…俺に期待しないで。」 鷺沼はちょっと苦しそうに顔をしかめてから、息を吐き出してつぶやいた。 「…本当は言うつもりは無かったんだ。俺はお前のことをずっと好きだった。でもお前の心が手に入らないのに、体をつなげるのが辛くなった。 俺はさ、身体で落としてお前の心を手に入れようとも思ったけど、なかなか手強かったよ。最初からそんな約束じゃなかったし、俺の一方的な思いだから、変なこと言って悪かったな。」 俺は鷺沼には応えられなかった。でもここ一年ずっとセフレとしてある意味仲良く関係してきた。その間に培った情というのはあったわけで、思わず感情が揺さぶられた。 鷺沼が困った顔で笑うと、俺の方が泣きたいんだけどって言いながら、俺をぎゅっと抱きしめた。今までありがとなって耳元で震える声でそう言うと、俺に背を向けて急ぎ足で歩き去っていった。

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