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第31話 甘やかな時間は短くて
俺は蓮のキスに夢中になった。甘やかす様な舌使いは、直ぐに俺を貪る様なものに変わった。俺はそれが蓮の秘めた想いのような気がして、何だか泣きたくなった。
俺も、こいつも、馬鹿みたいに感情という面倒くさいものに振り回されている。俺たちはただ、肉欲だけを欲する生き物だったらどんなに楽に生きられるんだろう。
でもそうしたら、今みたいに蓮が与えてくれる甘やかな時間はきっと味わえないのだろう。俺はなまめかしい音を立てて口づけ合う自分が、無意識に蓮の頭を抱えているのに気がついた。
ああ、これじゃあ俺が強請ってるみたいだ。蓮の大きな手が俺の胸や背中を這い回って、俺の期待は高まった。突き出た胸の突起をTシャツ越しに引っ掻く蓮に、もう揉みくちゃにされたくなった。
俺に必要なのは、我を忘れて身体を繋ぎ合うことなんじゃ無いだろうか。全てを忘れて…。不意に蓮の唇が遠ざかって、俺は重たい瞼をイヤイヤ開けた。
蓮は俺を覗き込んで、苦笑して言った。
「涼介は、まだ鷺沼先輩に囚われてる。俺はそんなお前を抱きたくないんだ。でも今のキスは悪く無かった。だろ?…涼介、ゆっくりいこう。俺は十分待った。今更焦っても、たぶん涼介の気持ちは拗れるばかりだ。
ゆっくりでも、確実にお前が俺のものになる方がいいしな。あぁ、俺って、涼介には本当甘くなっちゃうな。他のやつには、こんな気持ちになる訳じゃないからしょうがないんだけどな。」
そう言って、もう一度俺にキスをした。今度のキスはじっくりと甘やかすような、むしろ恥ずかしくなるようなキスだった。俺の口内や唇や舌、全てをゆっくりと、じっくり味わう様に舌で舐められて、啜られて、俺は馬鹿みたいに張り詰めた。
そんな俺に気づいた蓮が舌打ちして、身体を離すとおもむろに立ち上がって冷蔵庫から冷たい水のペットボトルを取り出すと俺に一本投げて、自分も俺を睨みつけながら飲み干した。
蓮の股間も昂っているのが分かって、俺はそっと目を逸らした。今、俺とキスだけで止めるのがあいつなりの優しさなんだろう。俺よりもあいつの方が俺の精神状態が分かってる気がして、俺は苦笑した。
喉を通っていく冷たい水が、身体の火照りを鎮めてくれる様で、結局俺も一本飲み干してしまった。俺たちがお互いそれ以上近づかない様にしていたのは、うっかり飛びつかない様にしていたのかな。
それが良かったのか、悪かったのか、今でも俺には判断がつかないんだ。結果は一緒だったのかもしれないけれど、それから俺たちは随分苦しい思いをする羽目になったのだから。
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