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第32話 篤哉side焦り
「なぁ、やっぱり涼介に言った方が良いんじゃないか?…もし、俺なら知りたいって思うぜ。」
そう言ってさっきからため息をついている壱太を見つめながら、俺は迷っていた。それは偶然、理玖に付き添って出向いた英明大学病院での出来事だった。
Ωである理玖はホルモンバランスが崩れがちなので、定期的な健康チェックが欠かせない。その日も半年に一度の検診のためにΩ外来で理玖が診察を受けている間、最上階の病院内の展望カフェテリアでいつもの様に時間を潰していたんだ。
ふと入り口から、去年の生徒会の先輩が入ってきたのに気がついた。相手も俺に気づいた様で、一緒にいる連れに何か話しかけると、手を挙げてこちらに近づいてきた。
「東、久しぶりだな。流石に大学と高校じゃ会う機会もないからな。…ちょっと相席してもいいか?」
俺は頷くと片桐先輩の連れに目を向けた。この人は見たことがある。確か大会記録を持っている水泳部部長だった先輩だ。片桐先輩はチラッとその水泳部部長を見た。
俺は何か言いたげな二人を前に、何を言われるのか検討もつかなくて戸惑っていた。
「東、お前三好と仲良いだろう?今もつるんでるのか?」
俺は涼介の事なのかと、訝しく思いつつも、水泳部部長と繋がりのある人物を思い浮かべた。
「ええ。…もしかして、鷺沼先輩の事ですか。涼介と先輩は、別れてますよ。」
片桐先輩は肩をすくめて手元のコーヒーをひと口飲むとニヤリと笑って言った。
「本当、お前は可愛げがないよ。そうやって先走って俺に説明させないところとか。まぁ、いいけど。俺たちもあの二人が別れてるのは知ってる。…葵が自分で三好から離れたことも。」
俺は顔を顰めて尋ねた。
「…何です?ハッキリ言ってください。」
するとさっきから黙って俺たちのやりとりを聞いていた、元水泳部部長が話しだした。
「俺は橘だ。鷺沼は水泳部副部長だった。俺と片桐とよく三人でつるんでたんだ。だから三好との事もよく知っている。…今日俺たちがここに居る理由は鷺沼なんだ。
…実はあいつ、もう長くない。」
俺は今、耳にしたことがどう言う事なのか直ぐに理解出来なかった。でもその事が、涼介との別れに関係があると感じた。
「…それって。その事涼介は知りませんよ。絶対。」
俺が焦ってそう言うと、片桐先輩が腕を組んで沈痛な顔をして言った。
「ああ、そうだろうな。ていうか、鷺沼がそうしたんだ。俺たちは鷺沼の決めたことに口を出すつもりは無かった。でも今になって迷っている。あいつを見てると、死ぬ前に三好に会わせてやりたいって、どうしても思ってしまうんだ。」
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