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第36話 俺たちの道

「よう。…ちょっと痩せたか。」 そう言って、俺を見つめる蓮もまた、少し痩せたみたいだ。部屋に戻っていく蓮の後を追う様にマンションに入った俺は、いつもの定位置にどかりと座った。 張り詰めていた気持ちが急に解ける様に、俺は目の上に腕を覆って息を吐き出した。 蓮はそんな俺を黙って見下ろしていたけれど、キッチンへ行くとカチャカチャと何かお茶でも淹れてくれているみたいだった。俺はその心地よい音を聞きながら、気がつけば眠り込んでしまったみたいだった。 顔を上げると、蓮が手元のモバイルから顔を上げてこちらを見た。 「…悪い。俺、寝てたよな。」 俺がそう言うと、蓮はにこりと微笑んでおもむろに立ち上がると、キッチンに立ってキャラメルマキアートを作って持って来てくれた。泡の上のキャラメルの格子柄を眺めながら、俺はニヤリと笑った。 「お前、こんなの作れるのか?凄いな。…美味しい。」 蓮は甘いものは好きじゃない筈なのに、多分俺のためにこの手のものを用意しておいてくれていたんだろう。最近の混乱ぶりに疲れ切っていた俺は、その事に無性に癒やされた。 「…鷺沼先輩、どんな感じなんだ?」 俺よりも先に口火を切ったのは蓮だった。俺はゆっくりと甘くて温かいキャラメルマキアートに癒されると、ホッと息を吐き出して言った。 「会いに行く度に、悪くなってるのが判るんだ。多分お前が今、葵に会ったら誰なのか分からないかもしれない。すっかり痩せてしまって。あのマッチョな葵が冗談みたいだ。 …でも現実だ。もうすぐ死んでしまうことも、俺たちにはどうする事も出来ないことも、全部本当なんだ。」 黙って聞いていた蓮は俺の隣に座り直して、肩に手を掛けるとそっと自分に寄りかからせて言った。 「辛いな。お前も。鷺沼先輩も。俺、鷺沼先輩がお前をわざと遠ざけて、病気のこと秘密にしようとした理由が分かる気がするんだ。お前はいつも強気だけど、実際は繊細で強がってばかりだ。 そんなお前のこと、先輩はよく分かってたんだな…。悔しいけど、俺にお前を遠ざけて、すがらないで居られるかは分からない。強い人だよ。本当に。…悲しいな。」 そう言って俺の肩を優しく撫でる蓮の優しい声に、俺は堰き止めていた涙が溢れてきてしまった。蓮が俺を腕の中にすっぽりと抱きかかえて、俺はその温かくて逞しい胸を感じながら、葵の骨張った身体を悲しい気持ちで思い出していたんだ。 その時俺は、俺たちが向かう道がハッキリと枝分かれしていくことをまざまざと感じた。葵が俺たちとは違う道へ、後ろも見ずに独りで歩いて行く、そんな姿が俺の閉じた瞼の奥に見える様な気がした。

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