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side. madoka
「円、サン…」
目が覚めたら、やっぱり彼はいなくて。
すっかり見慣れた天井は、隣りの部屋。
″昴クン″の匂いがする、その場所に…
無意識にもオレは安堵していた。
あんな激しかった情事。
気怠さと節々の鈍痛、脳裏に焼き付く記憶を除けば。
全てが夢だったんじゃないかって思わせるくらいに…。
オレの身体は綺麗に清められ。まるで風呂上りのような、爽やかな香りに包まれていた。
「無理しないで…晃亮、手加減無しだから…」
そう言って優しくしてくれる昴クンは、
まるで自分が犯した過ちを償っているかのような…
酷く辛そうな顔で、オレを見つめる。
既に1ヵ月程…
″あの日″から始まった、オレの現在 の日常。
「ごめっ、ね?昴く…」
「え…?」
のろのろと起き上がったオレを支えながら、
戸惑いを見せる昴クン。
「オレッ、汚いのに…全部、聞こえてた、でしょっ…?」
「円サン…」
身体は既にボロボロ。意にそぐわない行為のお陰で。
持ち前の性格も活かせないくらい、どこもかしこも痛くて苦しくて堪らないけど…。
「泣かないで、円サン…」
この涙は、そんな理由で流してるわけじゃないんだ。
「ッ…どして、かな?彼は…キミはっ────」
────そんな辛そうな顔をするの?
オレがそう切に問い掛ければ。
昴クンは途端に表情を曇らせ、俯いてしまう。
きっと何か理由があるんだって事は、なんとなく気づいた。
それが彼らにとって、
複雑な事情なんだろうなって事も…けど。
ここまで来ると、流石にオレでも余裕なくなっちゃってて。思ったより、心が弱ってるみたい…。
オレのが年上のお兄さんなのに。
こんな取り乱して、情けないよね…。
けど、昴クンは優しいコだから。
泣き崩れるオレを、ギュッと抱き締めてくれる。
あんなコトの後だけれど。
この瞬間だけは、
すごく救われた気持ちになれるんだよ?
少し迷っていたのか、昴クンが躊躇いがちに口を開く。
「晃亮は…不器用なだけ、なんです。」
声も身体も、少しだけ震えていて。
オレも彼がしてくれるみたいに、そっと広い背に腕を回してみる。
「晃亮はきっと、貴方の事が好き…なんだと思います。今まで誰かを好きになった事が無いから、上手く接する事が出来ないんだと思うけど…」
その原因も自分にあるのだと、自嘲気味に呟く昴クン。
愛情表現を知らず、暴力に走る晃亮クンも。
それを強制的に与えられるオレも…
見てる事しか出来ない昴クンも。
きっと…みんな同じように。
苦しんでるのかもしれない。
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