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side. Subaru
「なあ、昴…」
遥サンに名を呼ばれ見やれば、相変わらず挑発的な視線を返されて。
しかしその眼には、真剣さが感じ取れたから。
俺も負けじと、正面から見据えた。
「率直に聞く。円を苦しめてたのは、お前か?」
問われた事に対し、違いますとも言えず…。
直接手を下したのは晃亮だったが…
晃亮があんな風になってしまった原因は、間違いなく…俺にあるから。
どうしても俺ではないとは、言い切れなかった。
そんな理由で黙っていると。
遥サンは溜め息を吐いてから、更に口を開いた。
「俺は…見ての通りこんなだからよ?ある程度の事情なら、ちゃんと聞いてやれるから。だから…」
“包み隠さず話せ”
命令口調にも、彼なりの配慮が見て取れて。
俺は一度円サンと視線を交わすと…
腹を括って、こくりと頷いた。
「……で、その晃亮ってのに色々強要されてたってワケか。」
流石に俺と円サンの微妙な関係は、話せなかったが…。晃亮が円サンにしてきたことについては、ある程度説明はした。
衝撃的な内容故に、遥サンもかなりショックを受けるかに思えたが…。
意外にもあっさりと冷静に。全てを受け止めたようだった。
「人格破綻者、ってヤツか…。」
いたなぁ~そう言うヤツ、と過去を懐かしむよう煙草を吹かす遥サン。
何故晃亮がそうなってしまったのか…
普通なら疑問を持つだろうに。
俺の話を聞いても、この人も円サンも。
無理やりそこに触れようとはしなかった。
まるで触れるにはそれなりの“覚悟”が要ることを、
知っているかのように…。
きっとなんとなく、理解しているからだろう。
「で…お前は見て見ぬ振り、してたって?」
冷たく言い放つ遥サンに何も言い返せず、
俺は奥歯を噛み締める。
「そんなっ…昴クンは────」
「お前は黙ってろ、円。」
言いかけた円サンも兄の気迫に負け、口を噤んでしまった。
「お前と晃亮ってヤツの事情なんざ、知らねえけどな。ソイツの事を兄貴みてぇな存在だってんなら、テメェのしてる事は優しさじゃあねぇよなぁ?」
まさにこの人の言う通り。俺はただ逃げているだけ…
今までそうしてきた代償が、コレだ。
「俺、はっ…」
もう、隠してる場合じゃないのかもしれない。
むしろ、独りで抱えるには…重すぎる。
理不尽な暴行を受けた円サンも、
その家族の身を案じる遥サンも。
無関係では、済まされないだろうから。
「聞いて、くれますか…?」
俺と晃亮の、過去を。
泣きそうな顔を歪め、ふたりにそう告げたなら。
迷うことなく、まっすぐに…頷いてくれた。
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