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44 追憶①
今から17年前。
閑静な高級住宅街で、晃亮は生まれた。
父親は代々受け継がれてきた会社の、
次期後継者とも謳われる程のエリートで。
晃亮が授かった遺伝子そのままの。
容姿端麗で何に対しても優秀な…非の打ち所のない人物だった。
…手癖と性格の悪さを除いては。
勿論母親も、名家のお嬢様で美しくも自尊心が強く。
それまではバリバリのキャリアウーマンだったが…
晃亮を出産してからは仕事を辞めて。
家庭を守るようになっていた。
彼女は独占的の塊。
執拗なまでに、夫である晃亮の父親に依存し…溺れていた。
晃亮がまだ母親のお腹の中にいる頃、
千葉家の隣に若夫婦が越してきた。
彼らも負けず劣らずのセレブな美形揃いで。
年齢も近かった事から、すぐに打ち解けていき…両夫婦はこぞって仲良く接する間柄になっていた。
が…この時既に、歯車は嫌な音をたてて狂い始める。
晃亮が産まれて暫く経った頃、
隣の若夫婦にも吉報が舞い降りた。
そう、子を授かったのだ。
夫や晃亮の母親も大いに喜び、両家で盛大に祝ったのだけれど。
妊娠した本人と、何故か晃亮の父親も…
その表情は、なんとも険しいものだった。
初産もあってか、
妊娠に気づいた時には既に5ヵ月を過ぎていて。
もう後戻り出来ない状況の中、発覚した衝撃の事実。
その子は、
若夫婦の間に授けられた子などではなく。
その妻と、晃亮の父親との間で。
密やかに造られた子…だったのだ。
2人は禁じられた遊びに身を賭して、
肉体関係を持ってしまっていた。
真実を知った両家は脆くも崩れ去り、関係も破綻。
だが、どちらも名のある資産家の血族。
このような汚名は、あってはならないんだ。
こういった業界には珍しくない、
政略結婚から築かれた夫婦だった為。
離婚などと言う選択肢は、勿論なかったから──…
その子は若夫婦の″実子″であると…
『小野寺 昴』として、生を受ける事となった。
誰からも望まれなかった命…────俺が。
両親の愛情など、与えられる筈もなく。
幼少期はほぼベビーシッターに押し付けられ。
両親からは一切関わろとはしなかった。
『俺の子でもないくせに…!』
『アンタなんかが産まれた所為で…!』
たまに見る親の口からは、
言葉をうまく理解しない頃よりそう罵られ。
俺が心を閉ざすのは、もはや必然でしかなく。
その頃、先に産まれた晃亮もまた…同じような仕打ちを。実の親から身勝手にも、強要されていたらしい。
彼の父親は精神的に不安定な人間で、
良く手を挙げる癖が有り…。
晃亮も例外なく、その洗礼を受けていた。
父親を溺愛する母が、我が子を守る事はなく。
一度として晃亮に対し、母親としての姿を見せることなく。
醜くも雌の本性を晒し乱れ狂い…
愛しい夫の裏切りを知った為に母親もまた…
晃亮の傷を抉る要因となっていったのだ。
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